2014/09/22

第57回「ゆとり」がない子どもたちの放課後-多忙な子どもたちの生活時間を考える-

ベネッセ教育総合研究所 初等中等教育研究室
研究員 木村 聡

子どもたちの放課後時間の今

 現行の学習指導要領は2011年に小学校、2012年に中学校、2013年に高校1年から学年進行で実施され今に至っているが、1977年の改訂以来減少し続けてきた授業時数は一転して増加することになった。いわゆる「脱ゆとり」である。平日の授業時数が増加し、学校ですごす時間が長くなるということは、その裏返しに子どもたちの放課後の時間は減少するということだ。少し大げさに言えば、現在の子どもたちは、およそ30年間日本の子どもたちが経験してこなかった「放課後の可処分時間が減少する」という事態に初めて直面していると言える。
 また、子どもたちの放課後の時間を取り巻く環境にも大きな変化が訪れている。少子化・人口減少に伴う学校の統廃合による通学時間の長時間化、共働き家庭が増加することによる子どもだけですごす時間の増加、子どもたちが持つことも珍しくなくなった携帯電話・スマートフォンの普及と使用時間の増加など、社会構造の変化やテクノロジーの発展は、子どもたちの生活時間にも大きく影響を与えているだろう。特にスマートフォンの普及はその多機能性から、子どもたちの遊び時間やコミュニケーションの時間、情報接触・収集時間など、広範囲にわたって影響を及ぼしているのではないだろうか。
 そのようななかで、子どもたちの放課後の時間の使い方は、今どうなっているのか。本稿ではベネッセ教育総合研究所が2013年11月に全国の小学5年生~高校3年生を対象に実施した「第2回 放課後の生活時間調査※」の結果から、現状と課題について考えてみたい。
※調査概要:
第2回 放課後の生活時間調査: 2013年11月11日~15日実施(小学5年生~高校3年生 8,100名)
第1回 放課後の生活時間調査: 2008年11月10日~14日実施(小学5年生~高校2年生 8,017名)
★高校生の経年比較は、高校3年生を除外して実施している。

「多忙感」を抱える子どもたち

 本調査で心や身体の疲れについてたずねたところ、「忙しい」と感じている子どもは、小学生51.2%、中学生64.8%、高校生70.4%で、どの学校段階でも半数を超えている。また、「もっとゆっくりすごしたい」と感じている子どもは小学生74.2%、中学生85.1%、高校生84.7%と高い。しかも「忙しい」「もっとゆっくりすごしたい」のどちらも、5年前に実施した第1回調査(2008年実施)と比べてその割合は高くなっている(図1)。
図1 生活に対する意識 (2013年)
※「とても感じる」+「わりと感じる」の合計

メディア接触の時間をやりくりする子どもたち

 次に、放課後の時間をみる上でここ数年での大きな環境変化の1つである、携帯電話・スマートフォンの使用時間についてみてみよう。ふだん(学校がある日)の使用時間をたずねたところ、平均時間は第1回調査と比べて小学生で+5分、中学生で+13分と増加しており、高校生では+37分と大幅に増加している。第1回調査を実施した5年前にはまだスマートフォンが子どもたちに普及していなかったことを考えると、多機能化・ウェブ端末化し、携帯電話以上にできることが増えたスマートフォンが、子どもたちの生活時間に与えている影響は大きい。
 一方で、ふだん(学校がある日)のテレビやDVDの視聴時間についてたずねたところ、平均時間は小学生で-11分、中学生で-21分、高校生で-17分と第1回調査と比べて減少している。子どもたちの興味・関心が、テレビの世界から他へ移行している可能性もある。しかし、子どもたちは携帯電話・スマートフォンの使用時間を増やす一方で、テレビやDVDの視聴時間を抑えることで、限られた放課後の時間をやりくりしようと工夫しているようにもみえる(図2)。
図2 1日あたりのメディアの平均使用時間

放課後時間にみる子どもたちの「まじめ化」

 子どもたちの生活リズムの基本である睡眠時間についてみてみると、どの学校段階でも第1回調査の結果と大きくは変わっていない(図3)。しかし起床時刻をみると、朝6時までに起きる子どもたちの割合が増えている(図4)。ここではデータは示さないが、就寝時刻も早まる傾向にあり、生活リズムは維持・改善されているようだ。これは文部科学省が推進する「早寝早起き朝ごはん」国民運動の成果の表れとも言えるかもしれない。
図3 平均睡眠時間
図4 起床時間(朝6時までに起床している割合) (2013年)
 子どもたちの「本業」ともいえる学習時間についてもみてみよう。ふだん(学校がある日)の勉強時間をたずねてみると、「学校の宿題をする時間」の平均はすべての学校段階で6分増えており、また「学校の宿題『以外』の勉強時間」の平均は中学生で5分、高校生で6分増えている(図5)。学習指導要領の改訂によって教育内容が増えて教科書も厚くなり、子どもたちが学習しなければならないことは確実に増えている。学校や教育委員会が家庭学習指導を重視していることとあいまって、子どもたちは放課後に一定時間を確保して、「まじめ」に学習に取り組んでいる様子がうかがえる。
図5 学校がある日の平均勉強時間

子どもたちは時間の使い方に満足しているか?

 ここまで子どもたちの放課後の時間の使い方をみてきた。勉強や習い事、部活動、携帯電話・スマートフォンを使う時間など、毎日を忙しくすごしている子どもたちの姿がみえる。そんな子どもたちは、自分自身の時間の使い方に満足しているのだろうか。最後に子どもたち自身の時間の使い方に対する満足度(自己評価)をみてみたい。子どもたちに「日ごろの時間の使い方」を100点満点で自己評価してもらったところ、すべての学年・学校段階で、平均点数が第1回調査と比べて減少している(図6)。また、「時間をむだに使っている」と感じている子どもは小学生50.3%、中学生63.2%、高校生68.1%と半数を超えている(図7)。放課後の時間の使い方について課題や悩み、不満を抱えている子どもたちは多いようだ。
図6 日ごろの時間の使い方の平均点数(100点満点)
図7 時間のすごし方(時間をむだに使っていると感じる) (2013年)
※「とてもあてはまる」+「わりとあてはまる」の合計

時間の使い方について、子どもたちと一緒に考える機会を

 子どもたちが毎日すごす放課後の時間は、授業時数の増加や社会環境の変化によって、今、自己管理がとても難しい状況にあると言えるだろう。そんななかでも子どもたちは、生活リズムを維持しながら一定の学習時間を確保するなど、子どもなりに時間の使い方について考え、可処分時間のやりくりを工夫している。まずはその工夫やがんばりを、子どもを見守る大人は認めることが大切だ。ただし、子どもたちも時間の使い方に満足しているわけではない。大人は子どもの時間の使い方の課題を踏まえた上で、子どもに寄り添って生活時間について考えたりアドバイスをしたりしながら、子どもたちを支えてあげてほしい。
 「第2回 放課後の生活時間調査」は、意識や実態についての結果を「速報版」としてまとめるとともに、結果の一部をグラフィカルにわかりやすく1枚にまとめた資料も用意している。この資料を子どもたちと一緒にみながら、放課後の時間の使い方について話し、考える機会をもってみてはどうだろうか。時間の使い方に対する子どもたちなりの考え方から子どもの成長を感じられるであろうし、大人にとっても自身の時間の使い方について気づかされることも少なくないだろう。

著者プロフィール

木村 聡
ベネッセ教育総合研究所 研究員
製造業の事業部企画部門、ベネッセコーポレーションの事業部企画部門および研究推進部門を経て、2012年度より現職。初等中等領域を中心に、子どもの学習行動・学習観に関する研究や、子ども・教員を対象とした意識や実態の調査研究を担当。これまでに関わった調査・発刊物は「高校データブック 2013」「第2回 放課後の生活時間調査」がある。