ゲームの教育効果とは?ゲーミフィケーションって?成績UPにつながる活用術を専門家が解説【体験談あり】
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お子さまがゲームを楽しんでいるのを見て、「勉強にもこのくらい夢中になってくれれば……」と感じたことはありませんか?
しかし、東京大学大学院情報学環でゲームやゲーミフィケーション(ゲームの要素を学習や仕事に取り入れること)の研究に取り組む坂井裕紀(さかいひろのり)先生は、「近年は、ゲームの教育的効果に関する実証研究が進んでいます」と解説。
そこで、「そもそもゲームって勉強の妨げにならない? 教育的効果はあるの?」「ゲーム的要素を家庭学習に取り入れて楽しく勉強するにはどうしたらよい?」といった疑問を坂井先生にぶつけてみました。
お子さまが楽しく自主的に学習に取り組めるよう、ゲームを積極的に活用してみませんか?
「ゲーム×教育」で得られる効果とは?
まずは坂井先生に、ゲームが教育現場でどのように用いられるようになったのか、近年の状況を伺いました。
「この10~15年ほどで、ゲームを教育に活用する研究が増え、実際に得られた効果の検証も行われるようになってきました。特に近年はデジタルゲームが主流になってきたため自動的にデータの蓄積ができるようになり、効果測定もしやすくなっています」
ここで、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所による共同研究プロジェクト「子どもの生活と学び」の一環として行われた「子どものICT利用に関する調査2023」をご紹介しましょう。
小学4年生から高校3年生までの児童・生徒約9,200名を対象としたこの調査からは、ゲームをすることのプラス面を実感しているお子さまが非常に多いことがわかります。
特に注目したいのは、小学生の回答結果です。
成績上位のお子さまほど、「いい気分転換になる」「いろいろな作戦を考える」と回答した人の割合が高いという結果が出ました。
また、小・中・高校生いずれも、成績上位層ほど「時間を使い過ぎないようにしている」と回答したお子さまが多いこともわかります。
※東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究「子どものICT利用に関する調査2023」より
こうした結果から、保護者のかたのサポートで、ゲームと上手に付き合いながらよい効果を得る可能性があるといえそうです。
「ゲーミフィケーション」とは?
「ゲームをお子さまの学習に活用できるか」を考えるにあたって、ゲーミフィケーションについて知っておきましょう。
ゲーミフィケーションとは、ゲームのポジティブな要素を仕事や教育などに応用することを指す言葉です。
坂井先生は、研究テーマの一つとして「ゲーミフィケーション」の効果検証にも取り組んでいます。
「ゲーミフィケーションは、2010年ごろから急速に知られるようになり、ビジネスや健康、教育など幅広い分野に活用されています」(坂井先生)
坂井先生は、ゲーミフィケーションの特徴として「必ずしもゲームをする必要はなく、ゲームの要素を取り入れて仕事や学習などの効率・効果アップを目指すこと」と説明します。
「ある製造系企業のリーダー研修で、ゲーミフィケーションを仕事に取り入れるノウハウをお伝えしました。その結果、メールの確認をモンスター退治に見立ててどんどん返信したり、山積みの書類を処理するにあたってごほうびを設定したり、楽しく仕事をすることができるようになりました。また、受講者のポジティブ感情は、研修前に比べて増加していました」
ゲーミフィケーションのメリット
ゲーミフィケーションの手法を仕事や学習に取り入れるメリットについて、坂井先生は「気が進まないことでも楽しく取り組めるようになること」と解説します。
「たとえば、私はゲーミフィケーションの要素を取り入れた高校生向けの授業をデザインし、複数の先生に実践していただきました。その結果、学習に対する動機が低い生徒ほど授業に興味を持ってくれたのです。動機には、外発的動機(他人からの働きかけによってやること)と、内発的動機(自分の意思でやること)があります。この例では、授業にゲーミフィケーションの要素を取り入れることで、授業への興味が高まり、生徒が自分の意思で学習に取り組むようになったわけです」
また、ゲームそのものによる学習効果を実感する人も少なくないそうです。
「あるラジオ番組に出演した時に、リスナーのかたから、『桃太郎電鉄』シリーズを未就学の子どもたちにさせたらゲームに出てくる地名や歴史や漢字、すごろくで使う足し算をどんどん覚えるようになって驚いた、といったメッセージをいただきました。このかたのお子さまは、ゲームをきっかけにたくさんの知識を楽しみながら身に付けることができたわけですね。このようにゲームをすることが学校の勉強につながることもあります。また、ゲームによっては、よい人間関係をつくるヒントを学べることや運動機能を高めることがあります」
ゲーミフィケーションで留意すべき点
ゲーミフィケーションを仕事や学習に用いることにはたくさんのメリットがありそうですが、坂井先生によれば「ゲーム要素を取り入れる際には注意点もいくつかある」とのこと。
「《ゲーム》という言葉には不思議な力があってゲーミフィケーションを取り入れるにあたっても『ゲーム要素があるとみんな楽しい』と考えられがちな面もあると思います。しかし、すべての人にゲーミフィケーションが効果的とは限りません。先ほどご紹介した高校の授業の例でいえば、学習に対する動機が高い生徒は、授業にゲーム要素が加えられたことによって学習に対するモチベーションが下がっていたのです。すでに自分の意思で授業に取り組んでいる生徒には、ゲーム要素が妨げになることもあるのです」
また、ゲームが好きな人でも、ゲーミフィケーションが必ず効果を発揮するとは限らない、とのこと。
「たとえばゲームとひとくちに言っても、ロールプレイングゲームからシミュレーションゲーム、パズルゲームなどさまざまで、どんなタイプのゲームを楽しいと感じるかは人によって違います。個人の好みを考慮したうえでゲーム要素を取り入れなければ、効果も薄いでしょう」(坂井先生)
教育現場でも広がるゲームの活用
教育現場において、ゲーミフィケーションだけでなく、ゲームそのものを授業に導入する事例などが見られるようになっています。
「たとえば先ほど挙げた《桃鉄》に関しては、教育現場で活用することを想定したデジタル教材『桃太郎電鉄 教育版Lite〜日本っておもしろい!〜』が開発され、学校への無償提供がすでに始まっています。ほかにもゲームを活用したプログラミング教育を授業で実践するケースも見られるようになってきました。この流れは、今後も続いていくのではないでしょうか」
家庭学習でゲーミフィケーションを実践するには?
お子さまの家庭学習を後押ししたい時に、ゲーミフィケーションの手法を生かすことはできるでしょうか?
実践のコツについて、坂井先生は「MGR(ミッション・ゴール・ルール)を設定することです」と解説。
「ミッションとは、『分数のわり算ができない』といった具体的な課題のことです。課題を明らかにすることで『分数のわり算を解けるようにする』というゴールが決まります。そして、ルールには、ただ勉強するだけでなく『10分以内に20問正解する』などの制限や条件を設けることです。制限や条件を設定することによって、お子さまは自分の意思で学習に取り組みやすくなります」
ルールを設定する時に大切なのは、「お子さまと一緒に決めること」と坂井先生。
「お子さまに『どんなルールがあると楽しい?』と聞きながら、一緒にゲーミフィケーションを取り入れた学習方法を組み立てていくことが大切です。我が家でも、子どもたちの個性に合わせて、『この問題集を8分でやってみよう』や『宿題を期限内に提出したら一緒にカフェに行こう』といった感じで、子どもたちと一緒にゲーミフィケーションを実践してきました。自分でルールを考えることがお子さまの自発性を高めるのはもちろん、保護者のかたとしてもお子さまの特性を深く知るのに役立つと思います」
【大学生に聞いてみた】勉強につながったゲーム・アプリは?
記事の最後に、進研ゼミ受講経験のある大学生がアンケートで挙げてくれた「勉強に役立ったゲーム」をご紹介します。
お子さまが普段楽しんでいるゲームを考慮しながら、「これはうちの子が好きそう」「楽しみながら勉強に役立てられそう」と感じたら、試しに一緒に遊んでみてはいかがでしょうか?
ゲームで得た知識や力をきっかけに、お子さまが勉強をより楽しめるようになる可能性もありそうです。
(体験談)
『英語物語』
「英単語はほぼこのアプリで遊びながら覚えた」と言っても過言ではありません! ロールプレイングゲームなのでやり込むほどにハマり、気付いたら英語が得意教科になっていました。
(慶應義塾大・法学部 S・Mさん)
『Fate/Grand Order』
このゲームをきっかけに歴史全般に対する苦手意識がなくなり、難関私立大のマニアックな問題にも対応できるようになりました!
(青山学院大・教育人間科学部 N・Hさん)
『みんなで早押しクイズ』
雑学から学校の授業で学ぶ知識まで、楽しく覚えることができました。クイズをきっかけに知った情報は、勝敗の記憶と結び付くせいか定着しやすかったです。
(名古屋市立大・経済学部 M・Tさん)
『あそんでまなべる世界地図パズル』
遊びながら国の形や位置、国名を覚えることができたので、地理の共通テスト対策にとても役立ったと実感しています。
(神戸大・理学部 T・Kさん)
まとめ & 実践 TIPS
なんとなく「ゲームは勉強と相反するもの」と思っているかたもいるかもしれません。「ゲームは勉強に役立つかも」「ゲーム要素を取り入れることで学習が楽しくなるかも」という視点を持つことで、新しい世界が広がります。
お子さまの意欲や自発性を引き出すための方法として、ゲームやゲーミフィケーションを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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