音を振動と光で伝達するOntenna(オンテナ)を使った作品の鑑賞体験とは?「Ontenna x 豊島 Art Workshop」【直島アート便り】

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Ontenna(オンテナ)は、振動と光によって音の特徴を体で感じることができるアクセサリー型の装置です。2021年7月、このOntennaを使って香川県の豊島(てしま)にあるアートを体感するプロジェクトが行われました。このプロジェクトに参加した子どもたちはどのような体験をしたのでしょうか。

photo:homevideo company

この記事のポイント

Ontenna x 豊島 Art Workshopとは?

Ontennaは、髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに付け、音の大きさを振動と光の強さにリアルタイムに変換することで音の特徴を伝達する装置です。Ontennaを使うことで、音のリズムやパターン、大きさを知覚することができ、聴覚に障がいのある人も目や肌で音を感じることができます。

人の声に反応するOntenna

Ontennaの開発者である本多達也氏は、障がいの有無に関わらず音を楽しめる未来をつくりたいという思いから、聴覚障がい者と健聴者が一緒に音を楽しむ体験のデザインに力を入れています。そこで、今回Ontennaを用いて豊島のアートや自然を五感で体験するプロジェクト「Ontenna x 豊島 Art Workshop」を開催しました(※1)。

このプロジェクトに参加したのは、香川県立聾学校と豊島中学校の子どもたちです。普段交流する機会の少ない子どもたちがアートやテクノロジーを介してお互いに学び合います。

アートを介して多様な考え方に出会う

まず鑑賞したのは「豊島美術館」です。アーティスト・内藤礼と建築家・西沢立衛が手がけた豊島美術館は、アート、建築、自然の一体を目指してつくられ、2010年に開館しました。

作品を鑑賞する前に、幼い頃から何度も訪れたことのある豊島中学校の生徒たちは、ほとんどが初来館という聾学校の生徒たちに豊島美術館はどういった場所であるかを紹介しました。

豊島美術館について紹介する生徒たち

聴覚に障がいのある生徒にも伝わるように、手話やジェスチャー、手描きの紙芝居など工夫をして説明しました。豊島美術館の紹介が終わると、生徒たちはOntennaを身に付けて作品空間までの遊歩道を進み始めます。

セミの音にOntennaを近づける

Ontennaが風の音やセミの声に反応し、自然には様々な音が溢れていることを体感する様子がありました。

作品空間に到着すると、生徒たちは五感を使いながら思い思いに作品を鑑賞します。生徒同士で気づいたことを教え合ったり、Ontennaを使って空間内で感じ取れる音を探したりする場面も見られました。

豊島美術館 内藤礼 「母型」2010年 写真:森川昇

鑑賞後には生徒一人一人が見つけたものを共有しました。床から生まれてくる水の動き、天井にある2つの開口部から入り込む光や風など、注目する観点は多様です。作品の鑑賞方法や解釈に正解はありません。アートを介して様々な考え方に出会うことで、それぞれの世界が広がったのではないでしょうか。

違いを理解しながらともに鑑賞方法を探る

「心臓音のアーカイブ」は、2010年に開館した世界中の人々の心臓音を聴くことができる美術館です。作家のクリスチャン・ボルタンスキーは2008年より人々が生きた証として心臓音を収集するプロジェクトを展開し、今では7万以上の心臓音が保管されています。(2021年8月現在)

館内には3つの部屋があり、豊島中学校の生徒と聾学校の生徒がペアになって鑑賞しました。

「ハートルーム」では、世界中の人々の心臓音に合わせて電球が明滅するインスタレーション作品が鑑賞できます。生徒たちは「思った以上に心臓の力強さが光から伝わってきた」「音に合わせて光っていて、光が心臓を表しているように感じた」と話します。Ontennaを身に付けて鑑賞した際は「音だけでなく振動で楽しめた」という声があり、聞こえの違いに関わらず鑑賞体験に変化があったようです。

心臓音を検索して聴く生徒

「リスニングルーム」では、これまでに録音された世界中の心臓音を聴くことができます。豊島中学校の生徒は、過去に録音した自分や家族の心臓音を聴く姿が見られました。聾学校の生徒は、心臓音のリズムを豊島中学校の生徒に机をたたいて教えてもらったり、ヘッドフォンにOntennaを当てて振動から心臓音を感じたりと、工夫しながら作品を楽しんでいました。

心臓音を登録した後は芳名帳にサインをする

「レコーディングルーム」では、今まで心臓音を録音したことのない生徒全員が未来の自分へのメッセージとともに心臓音を登録しました。自分の心臓音を初めて感じたという生徒がほとんどで、録音が終わるとすぐに自分の心臓音の特徴を他の生徒に伝えている様子が見られました。

生徒たちは自ら作品の楽しみ方を発見し、お互いにコミュニケーションをとりながら鑑賞方法を探っていました。それぞれの感覚の違いを理解することで作品の楽しみ方を広げることができました。

自分だけのOntennaをつくろう

作品を鑑賞した聾学校の生徒たちは、Ontennaの振動や光をプログラミングして自分だけのOntennaをつくります。

Ontenna開発者・本多達也氏によるオンラインレクチャー

まず、Ontennaの開発者である本多達也氏とオンラインでつなぎ、Ontennaの開発のきっかけや活用事例についてお話をうかがいます。開発者本人から直接お話を聞くことができ、生徒たちは興味津々の様子です。

プログラミングに取り組む生徒

そして、実際にOntennaのプログラミングを行ってみます。プログラミングを勉強しながら、Ontennaを自分の好きな光の色や振動の強さに変え、自分だけのOntennaにカスタマイズします。プログラミングが終わると、早速声を発してOntennaが自分の色に光るかどうか確かめる様子がありました。

最後に、自分だけのOntennaを持って「心臓音のアーカイブ」をもう一度鑑賞します。

プログラミングしたOntennaを身に付けて作品を鑑賞する

心臓の音に合わせてOntennaが青、緑、赤、紫など様々な色に光って鑑賞する体験は、プログラミング前とはまた違い、歓喜の声が上がります。鑑賞後には「自分の好きな色や自分がわかる振動にすることができて良かった」「一人一人の色が違ってワクワクした」と自ら新たな体験をデザインできたことへの喜びを話してくれました。

五感を拡張することで得られるもの

今回Ontennaを使ってアートを鑑賞することで、普段意識していない感覚に気づき、生徒同士の交流が深まる機会となりました。Ontennaが音を振動と光に変換するように、アートを鑑賞するときも自分の五感を拡張することで、新しい発見や他者とのコミュニケーションを生むことができるのではないでしょうか。

また、社会課題の解決のために開発されたテクノロジーによって生み出された新たな体験を通して、生徒たちは自分の手で未来を変えることができるという実感を持つことができました。今回の経験は、将来直面する課題に対して、自ら解決策を考え行動することにつながるかもしれません。

「Ontenna x 豊島 Art Workshop」体験映像

※1 本ワークショップは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の研究領域「イノベーショ ン創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」における研究課題「計算機によって多様性を実現する社会に向けた超 AI 基盤に 基づく空間視聴触覚技術の社会実装(研究代表:「xDiversity」落合陽一)」の支援を受けて実施したものです。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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