なぜ「思考力」が求められる?(後編) 思考力を伸ばすために、親子のコミュニケーションで心がけたいポイントとは

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思考力の育成についてお伝えしてきた全3回シリーズ。最終回は、社会の変化によって思考力がいっそう重要になり、学校の授業が変わりつつあることを踏まえ、思考力を育むためのご家庭でのサポートについて考えていきます。ベネッセ教育総合研究所研究員の小野塚若菜が、共同研究者の鳴門教育大学大学院の泰山裕准教授と、東京学芸大学の中村和弘教授からうかがいました。

この記事のポイント

「考えてよかった」という実感の積み重ねが思考力を伸ばす

小野塚 家庭でも子どもの思考力を伸ばすことができると思います。特に親子のコミュニケーションでどういったことを心がければよいでしょうか。

中村 学校では、子どもが自ら考える場面を増やすことで、思考力の育成を図っています。ご家庭でも、お子さまが自分で考えることを促すようなやりとりができると、学校での学びを活用する場面ができます。例えば、お子さまから「〇〇を教えて」と質問されても、すぐには答えず、「あなたはどう考えるの?」と少し聞き返したり、「〇〇をしたい」と言われたら、「どうしてそれをやりたいの?」と理由を優しく聞いてみたりするとよいと思います。
そのときに親として大切なのは、子どもが考えている時間を待てる、考えたことを実行するのを見守るといった心のゆとりをもつことだと思います。例えば、子どもが自分で考えて行動したことを途中でやめた際に、「自分でやりたいと言ったんでしょう」などと責めると、子どもは次も考えようという気持ちにならなくなってしまうと思います。考えた結果に対する責任を、お子さまにすべて負わせるのはよくありません。保護者が最後まで伴走して一緒に考えるスタンスを大切にしてください。

泰山 本当にそうですね。「考えてよかった」という実感の積み重ねが、自分からもっと考えようとする態度を育てると思います。いろいろと考えても、最終的に保護者から「こうしなさい」と言われてしまうと、最初から「考えても無駄だ」と思ってしまっても無理はありません。
そういう意味で、「教える・教えられる」ではなく、お互いに対等に考えを述べ合える親子関係を意識することがベースになるでしょう。親との対話を通じて、子どもは「自分1人で考えるよりも、考えが広がりやすい」などと実感すれば、次もまわりの人と話して考えるようになり、思考力や対話力が育まれていくはずです。

中村 子どもに考えさせるときに留意していただきたいのは、思考には負担がかかることです。私自身の子育ての経験からもいえるのですが、「自分で考えなさい」などと言い過ぎると、考えることが苦痛になったり、面倒くさくなったりするケースもあります。子どもの年齢や発達段階にもよりますが、難しいことを考えさせる場合は、例えば、いくつかの選択肢を示し、「こっちはこんなメリット、デメリットがあるよ」などと考えるためのヒントを出すと、徐々に自分で考えられるようになると思います。

保護者と一緒に子ども自身が考えて行動する経験を

小野塚 家庭では、どのような体験をすると、思考力の向上につながりやすいとお考えでしょうか。

泰山 子どもが責任をもって何かをする、言い換えると1つのことを考え抜く体験をすることが挙げられます。勉強やスポーツに限らず、例えば、「1週間、家族の食事の献立を考える」など、日常生活にかかわることでもよいでしょう。子ども自身がやることを決めて、保護者が相談に乗りながら、最後までやり遂げられるように支えましょう。学校でも、自分で問題解決をする活動はありますが、家庭では学校とは異なる思考の体験ができてよいと思います。

中村 子どもたちは、やりたいことがたくさんあると思います。学校から帰って、習い事に行ったり、宿題をしたり、本も読みたいし、テレビも見たいし、ゲームもしたい。そうした1日のタイムマネジメントを考えることは、思考力にも結びつくと思います。できるだけ、お子さまが決めて行動させて、保護者はそれを見守り、「先週に比べてここがよくできたね」「ここは難しかったけれど、どう変えたらいい?」などと話し合って、一緒によりよい生活をめざしましょう。

子ども目線で、子どもとの対話を楽しむ

小野塚 最後に、読者のかたがたにメッセージをお願いします。

中村 子どもの思考力を伸ばそうとしてちょっとした親子の対話を心がけると、「こんなことまで考えられるようになったのか」など、さまざまな気づきがあるはずです。子どもと互いの考えを話すうちに、外からは見えにくい内面的な成長がわかってきて、子育てはもっと楽しくなるでしょう。最初は、思考力の育成などと大上段に構えず、保護者のかたもお子さまと一緒に考えて、会話を楽しむことから始めるとよいと思います。

泰山 現代は、「こうあるべき」「これが正しい」といったこれまでの常識が通じない時代になってきました。保護者のかたが子どもの将来を先回りして考えて道を用意するのではなく、お子さまと同じ目線で「何をやりたいか」「どう生きたいか」などを話し合って支援するほうが、親と子の双方にとって気持ちが楽になりますし、子どもが自身で考えて生きていく力の育成にもつながるはずです。

まとめ & 実践 TIPS

家庭は、学校とは異なる場面で思考力を育むことができます。保護者のかたが先回りして、答えを言ってしまうのではなく、子どもの考えを聞き、子どもが考えたことをやり抜けるように支援することが大切です。まずは、お子さまとの対話を楽しむことから始めてみましょう。

泰山裕(たいざん・ゆう)

鳴門教育大学大学院 学校教育研究科准教授。園田学園女子大学講師を経て、現職。専門分野は、思考力育成、授業設計、授業研究、教育工学、情報教育。学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(中学校「総合的な学習の時間」)や文部科学省「次世代の教育情報化推進事業」企画検証委員などを歴任。

中村和弘(なかむら・かずひろ)

東京学芸大学教育学部教授。神奈川県川崎市の公立小学校教諭や東京学芸大学附属世田谷小学校教諭を経て、現職。専門分野は、国語科教育学。中央教育審議会「言語能力の向上に関する特別チーム」委員、学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(小学校国語)などを歴任。

小野塚若菜(おのづか・わかな)

ベネッセ教育総合研究所言語教育研究室研究員。筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了。専門分野は日本語教育、言語テスト。言語能力の育成や評価・測定について関心を持っている。

≪参考≫
ベネッセ教育総合研究所
新学習指導要領で求められる「言語能力」の育成とは~言葉を通して思考力を育む~
https://berd.benesse.jp/feature/focus/27-gengo/

プロフィール



株式会社ベネッセコーポレーションの教育、調査、研究機関です。子ども、保護者、先生、学校などを対象に、教育に関連する調査、研究を行い、その研究成果や調査報告書、各種データを無償で公開しています。

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