どのような遊びの経験が「学びに向かう力」につながるのか?

「遊び」と「学び」の関連について、みなさんはどのようにお考えになるでしょうか? 正反対のイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。最近では、幼稚園・保育園に「自由な遊びを増やしてほしい」と考える幼児の保護者が減る一方で、「知的教育を増やしてほしい」と考える方が増える傾向にあるようです(「第5回幼児の生活アンケート」https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=4770ベネッセ教育総合研究所)。あらためて幼児期の子どもにとっての「遊び」の意味を考えてみませんか。

「学びに向かう力」の重要性

幼児期の「遊び」の意味を考えるにあたり、ベネッセ教育総合研究所では「学びに向かう力」との関連を調べてみました。「学びに向かう力」は「よりよい人生を生きるための土台」とも言われています。具体的には、好奇心、協調性、自己主張、自己抑制、がんばる力などの非認知的スキルと言われるものであり、幼児期だけでなくその後の人生にも大きな影響を与えることが海外の研究から明らかになりつつあります。また、今後ますます激しく変化し将来予測が難しい世界を生きていくために必要な力であるとも言われています。私たちの調査でも、「学びに向かう力」は「文字・数・思考」の力や「学習態度」とも関係していることがわかっています(「幼児期から小学生の家庭教育調査・縦断調査」https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=3684ベネッセ教育総合研究所)。この「学びに向かう力」と幼児期の遊びの関連を調べるために、幼稚園・保育園などの年長クラスに通うお子さんを持つ保護者の方に、園でのお子さんの経験などを調査しました。

園での「遊び込む経験」が「学びに向かう力」と関連

調査の結果、多くの子どもが幼稚園や保育園でさまざまな経験をしていることがわかりました。その中でも、「自由に好きな遊びをする」、「好きなことや得意なことをいかして遊ぶ」、「遊びに自分なりの工夫を加える」、「挑戦的な活動に取り組む」、「先生に頼らずに製作する」、「見通しをもって、遊びをやり遂げる」の6項目を「遊び込む経験」(※)と呼ぶことにしました。この「遊び込む経験」と「学びに向かう力」の5つの領域(好奇心、協調性、自己主張、自己抑制、がんばる力)との関連を分析したところ、図1のように、園で「遊び込む経験」が多かった子どものほうが、「いろいろなことに自信をもって取り組める」などの「学びに向かう力」が高い傾向がみられました。

さらに、この「遊び込む経験」を支える条件として、園の中で自由に遊べる時間・空間・遊具や素材などの環境や、子どもの『やりたい』という気持ちを尊重する園の先生の受容的な関わりの重要性が見えてきました。(図2・3)

「遊び込む経験」が存分にできる環境づくりを

ままごと遊びや製作、積み木、鬼ごっこや縄とび…。「遊び込む経験」は、園生活のさまざまな場面で積み上がっていきます。子ども自身の「こうしてみたい」とか「こうなったら楽しそう」という思いを出発点として、どうすればいいのかを考え、試し、友だちや園の先生に自分の気持ちを言葉で伝え、ときに思い通りにならない悔しさや葛藤を味わいながらも、やりたいことを実現するために粘り強く取り組む。その過程で、思いを実現して手応えや自信を持ったり、友だちと協力して目標に向かう楽しさや充実感を得たりすることが、次の新しい目標に向けてがんばる力や協調性などの「学びに向かう力」となるのではないでしょうか。このような豊かな遊びを実現するためには、子どもの気持ちをくみ取り、適切なタイミングで援助をする園の先生方の関わりと、自由に活動を深められる時間や空間、道具などの環境が必要です。もちろん、園だけではなく家庭においても、可能な範囲で子どもの「遊び込む経験」を実現する環境づくりを意識することも重要だと思います。

子どもたちのよりよい未来のために

 この「遊び込む経験」は将来につながる力となる可能性が期待できるだけではなく、 “今ここにいる”子どもを、主体性を持つ存在として尊重することにも通じると思います。大切なのは、遊びの意味や価値をもう一度社会全体でとらえ直し、子どもが心と頭と体をフルに働かせて、夢中で「遊び込む経験」ができる環境づくりです。“今”を充実して過ごした結果が、子ども自身や社会全体のよりよい“未来”をもたらすのではないでしょうか。

<調査データ>
・ベネッセ教育総合研究所「園での経験と幼児の成長に関する調査」 https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=4940
※「遊び込む」という語は、リューベン大学のラーバース教授が開発した保育プロセスの質を捉える観点の一つである「involvement」を、子どもが保育中にしている状況を示す訳語として、「うちこむ、のめりこむ」などの日本語をもとに造語として東京大学大学院秋田喜代美教授が新たに考え使い始めたものです。「園での経験と幼児の成長に関する調査」では、監修の秋田先生に許可をいただき、この語を使用しています。

プロフィール


真田美恵子

「ベネッセ教育総合研究所」にて乳幼児領域を中心に、保護者や幼稚園・保育所・認定こども園の園長を対象とした意識や実態の調査研究を担当。これまで担当したものは、「幼児教育・保育についての基本調査」(2007・2008年、2012<平成19・20、同24>年)、文部科学省委託事業「保育者研修進め方ガイド」(2010<同22>年)、文部科学省委託事業「認定こども園における研修の実情と課題」(2009<同21>年)、園向けの情報誌「これからの幼児教育」編集(2008<同20>年)など。

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