大学の奨学金はどうなる 所得連動・無利子・給付型…

9月ももう終わり。進学希望の高校3年生は、本格的に志望校を絞る時期に入っていることでしょう。保護者にとって、合否以上に気になるのが、進学後の費用負担です。国のほうでも、負担軽減のため、日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金制度の見直しに取り組んでいます。

「課税所得の9%」も選べるように

現在の高3から導入が決まっているのが、「新たな所得連動返還型奨学金制度」の創設です。現在も、無利子奨学金に関して、通常の定額返還(私立大学の自宅生で5万4,000円を4年間借りた場合は月1万4,400円)に加え、年収300万円以下の世帯の学生が、卒業後も年収300万円以下なら返還が猶予される「所得連動返還型無利子奨学金制度」が2012(平成24)年度から導入されています。
利用者は、無利子奨学金貸与者の約30%(2014(平成26)年度で新規貸与者のうち4万5,340人)に上っています。しかし現行制度では、300万円を1円でも超えると、定額の返還が待っています。

2017(平成29)年度から創設することが決まっている新制度では、保護者の年収に関係なく、無利子奨学金を利用する全員が、新制度を選べるようになります。ただし、これまでは連帯保証人を付けるか(人的保証)、保証機関に毎月2,000~3,000円程度の保証料を払って保証してもらうか(機関保証)が選べましたが、新制度では、機関保証に一本化されます(保証料の引き下げは検討)。
先のモデルケースの場合、卒業後は、収入がゼロでも月2,000円、それ以降は、課税対象所得の9%相当を返還します(年収300万円の場合は月8,900円)。収入が増えれば、返還率に応じて、返還額も上がるわけです。なお、それでも返還が厳しい場合は、これまでどおり、返還猶予を申請することができます。

返還不要の対象者や方式は年末までに調整

一方、奨学金をめぐっては、これまで「有利子から無利子へ」の方針の下、貸与する人数の拡充を図ってきました。それでも、基準を満たしているのに予算不足で貸与されない「残存適格者」が、2016(平成28)年度時点で約2万4,000人いました。そこで文部科学省は来年度概算要求で、これらの人が全員借りられるよう、無利子奨学金の貸与人員を、2万4,000人増の49万9,000人と計上しています。この他、授業料減免も国立大学で2,000人増の6万1,000人、私立大学で1万2,000人増の6万人としたい考えです。

懸案となっている、返還の必要がない「給付型奨学金」の導入は、安倍晋三首相が8月の内閣改造時、2017(平成29)年度予算編成の中で実現できるよう、松野博一文科相に指示しました。概算要求には、対象者や必要額を明示せず、年末までの調整に委ねる「事項要求」としていますが、文科省では、児童養護施設退所者・里親出身者(約2,000人)や生活保護世帯(約1万5,000人)、住民税非課税世帯(約14万2,000人)などを対象に、一定の成績要件を設けたうえで、通常貸与額に上乗せ給付する方式や、貸与額の一部を返還不要とする方式を検討していることを明らかにしています。

政府は2012(平成24)年9月、高校授業料無償化に伴い、大学などの高等教育でも「無償教育の漸進的な導入」の方針を表明しています。まずは貧困家庭への支援が急務ですが、それ以外の家庭向けにも、更なる負担軽減策を目指してほしいものです。

※所得連動返還型奨学金制度有識者会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/069/index.htm

  • ※2017年度文部科学省概算要求・高等教育局主要事項
  • http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/08/30/1376639_1.pdf

※給付型奨学金に関する議論の整理について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/08/1376806.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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