信じて任せるほうが子どもは自ら動く！［やる気を引き出すコーチング］

学習

コーチング講座に通い始めたころのTさんは、いつもとても苦しそうでした。「中学2年生の息子が、何度言っても勉強しない。片付けない。親の言うことを聞かない」ことにいらだっている様子がとても伝わってきました。出てくる言葉は、いつも愚痴か憤りでした。
そのTさんが、最近、講座の中で、同じように悩んでいるお母さんに向かって、こうおっしゃったのです。
「お子さんにもっと任せたらいいんですよ」
私は、一瞬、耳を疑いました。Tさんからこんな言葉が出るなんて!?
「子どもの意思に任せることにしたら、楽になりましたよ。私が何も言わないほうが、子どもは自分でやるようになりました」
Tさんの変化に、驚きと共に興味がわいてきました。もう少し詳しく聴いてみることにしました。

子どもの人生は子どものもの

以下、Tさんのお話です。

「私、考えたんです。なんで、こんなに、子どものことでイライラしないといけないのか？　で、思ったんです。いろいろ気になることはあるけれど、『勉強はしてほしい』って。なんでしてほしいかって言うと、『テストで悪い点をとってほしくない』とか『将来、後悔してほしくない』とか『ほかの子と比べて恥ずかしい』っていう気持ちがあるんです。でも、子ども自身はどうかというと、そんなことはあんまり思っていないみたいで、『悪い点は恥ずかしい』とか『後悔するはず』っていうのは、私の感情だということに気が付きました。子どもの問題じゃないんです。私が勝手に問題にしているって気付いたんです。それが、だんだんバカバカしくなってきて、『しょせん、子どもの人生は子どものもの。子どもが自分で考えてなんとかするに違いない』と思ったんです。もし、何か相談してくれたら、それには親としてできる限りの援助はするけれど、『子どもの人生を親がコントロールしようとするのはやめよう！』と思いました。それで、『勉強しなさい』と言うのをなるべくやめました。言わないで見ていると、必要だと思うことは、自分でやっているんですよね。それがわかってから、子どもを見て、あんまりイライラすることはなくなりました。子どもに任せたほうがずっと楽ですよ」

絶対無条件の信頼

このTさんのお話を聴いていたお母さんが、こうおっしゃいました。
「それはわかるんですけれど、こっちが何も言わなくなったら、本当にもう勉強しなくなるんじゃないかと思うと、怖いんです」
これに対して、Tさん。

「そう！　勉強しなくなるんじゃないかって思いますよね！　私もそうでした。でも、親が子どものことをそう思っているから、子どもがそうなっていくんですよ。子どもをもっと信じたらいいですよ。信じて任せるって怖いじゃないですか。でも、親がそこを乗り越えて、思い切って任せてみると、そのほうが、子どもが自分でやるようになるんですよ。親が子どもを信じるほうが先なんですよ。そこは親のほうも怖がらないで、チャレンジしないと、子どもは変わらないと思うんです」

半年前、あんなにいらだっていたTさんと同一人物とはとても思えませんでした。Tさんのお話は、「なぜコーチングが人の自発性を引き出すのか」について、その本質的なところを言い得ているように感じました。ポイントは、相手の意思を尊重する姿勢と相手に対する絶対無条件の信頼です。

人を信頼する場合、私たちは、けっこう条件付きの信頼をしていることが多くないでしょうか。「あの人は約束を守るから信頼する」「あの子はいつもよい成績を上げるから信頼する」などが条件付きの信頼です。絶対無条件の信頼とは、何の根拠もないけれど、ただ信じるということです。強いて言えば、「あなたが私の子どもだから信じる」という信頼です。親のほうも勇気を持って、信じて任せてみた時、子どもも自ら動き出すのではないでしょうか。
Tさん、本当に勇気づけられる事例を、ありがとうございました。