デジタル教科書、2020年度から導入も…「紙」と併用!?

子どもにとっては楽しい夏休みですが、各地では、来年度に使う教科書の採択作業が本格化しています。といっても、一度採択されれば4年間は使われるため、今年度は高校1年生用だけが対象です。教科書をめぐっては、検定中の見本を見せたとか、採択関係者に金品を提供したとか、教科書会社の不祥事が相次いで発覚するなど、あまりよくない話題が続いています。そのようななか、前向きな話題として、「デジタル教科書」を導入しようという提言が正式にまとまりましたが、当面は紙の教科書と併用するといいます。どういうことでしょうか。

現行制度では想定されず

教科書は、全国どこでも、国公立を問わず、一定水準の教育を受けられるようにするため、「主たる教材」として、各学校に使用が義務付けられているものです。学習指導要領に準拠して編集され、文部科学省の検定を受ける必要があります(他に文科省著作教科書も)。小中学校段階の教科書に関しては、義務教育を無償とする憲法の理念に基づき、無償給与されています。

こうした教科書制度は、もちろん紙版の教科書を前提として作られています。今や教室では、先生が教科書の内容を電子黒板に提示する「教師用デジタル教科書」が一般的になりつつありますが、児童生徒用のデジタル教科書を使用している学校は、まだ多くありません。使用義務が課せられるのは、あくまで紙版であり、デジタル教科書は「補助教材」扱いで、その分コストもかさみます。導入するには、パソコンやネットワークなどのデジタル環境が整備されていることも不可欠です。

教育効果も高いデジタル教科書をどう正式に導入するかということは、文科省が有識者による検討会議を設けて、専門的な議論を行ってきたものです。

検定・著作権・コストなど課題山積

検討会議が発足した当初から、デジタル教科書を紙版に替えて導入することは困難だと見られていました。

小中学校には国の予算で教科書が無償給与されていますが、定価は新書や雑誌並みの低い価格に抑えられており、デジタル分まで無償給与の対象とするには、相当の予算増をしなければなりません。コンテンツを教師や子どもが操作できるのがデジタル教科書のメリットですが、動画や音声、リンク先など、どこまでを検定の対象とするかも問題になりますし、1年間で検定が終えられるかどうかという技術的な問題も発生します。

さらに意外と大きな問題が、著作権でした。紙版とデジタル版で二重の著作権許諾が必要となる他、紙の教科書なら著作権者が「名誉になる」といって低廉な使用料で掲載を許可した写真なども、複製が簡単なデジタル版となると、話が違ってくるからです。次期指導要領が小学校で本格実施となる2020(平成32)年度から、デジタル版も正式な教科書と認めるものの、当面は紙版と併用することにしたのには、そんな背景があります。

教育の質を高めるには、どうしてもコストがかかります。そのコスト負担は、使用者側に委ねられたわけです。これだけICTが社会生活に欠かせなくなっているのですから、予算面も含めた手厚い支援策が求められます。

  • ※「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 中間まとめ
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2016/06/17/1372596_01_3.pdf
  • ※教科書Q&A(文科省)
  • http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/010301.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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