高校生に新たな進路、「専門職業大学」創設へ

文部科学省の中央教育審議会は、実践的な職業教育を行う新しい教育機関として、「専門職業大学」または「専門職大学」(いずれも仮称)の創設を答申しました。正式名称は今後、幅広く意見を聞いて決定されることになっています。専門学校(専修学校専門課程)とは異なり、大学と同じ枠組みに位置付けられているのが大きな特徴で、具体化されれば、高校生の新たな進路の一つとなりそうです。

大学と同じ「学士」の学位を授与

新しい教育機関の修業年限は「2・3年制」および「4年制」とし、前者の卒業者には「短期大学士」、後者の卒業者には「学士」の学位を授与するとしています。現行の短大や大学と、まったく同じ扱いです。

実践的な職業教育を行うという観点から、教育内容としては、「卒業単位のおおむね3~4割程度以上を実習などの科目に充てること」「適切な指導体制が確保された企業などにおいて、2年間で300時間以上、4年間で600時間以上の『企業内実習等』を行うこと」などの条件を課しています。また、必要専任教員数のうち4割以上は、企業勤務経験などがある「実務家教員」とするとしています。この他、入試などでは、専門高校卒業者や、学び直しの社会人などを対象にした選抜を加えることなどを、努力義務とします。

実践的な職業教育を行う高等教育機関の創設は、これまでも何度か課題に上がってきましたが、大学関係者などを中心に反対意見が強く、見送られてきました。しかし政府の教育再生実行会議がその創設を提言したことで、大きく流れが変わり、中教審が制度化を答申するに至りました。

新たな高等教育機関を創設する理由として、現行の高等専門学校(高専)は中学卒業者を対象とする5年一貫教育の機関として存続させる必要があること、同じ高等教育機関である専門学校は設置基準などの自由度が大きい半面、教育の質保証の面で課題があることなどを挙げています。

大学や短大と同じ学位を授与することとしたのは、新しい「専門職業大学」の国際通用性を考慮したためと見られます。同様の教育機関としては、ドイツやフィンランドの「専門大学」などがあります。

専門学校からの昇格などを想定

新たな高等教育機関には、資格取得などを重視している大学や短大などが学部や学科の一部を転換して併設すること、教育条件の整った専門学校の一部が昇格することなどが想定されます。専門学校では、文科省が教育条件などを審査したうえで「職業実践専門課程」として認定する取り組みをしており、これらの専門学校が「専門職業大学」になると予想されます。

ただ、大学関係者の一部には、アカデミックな大学教育を変質させるという批判もあるようです。それでも大学と同じ学位を得られる高等教育機関として、実践的な職業教育を受けたいというスペシャリスト志向の高校生、より高度な技能などを学び直したいという社会人などの、新たな進路となることが期待されます。

  • ※個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo13/gijiroku/1371405

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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