ハーバード大に負けない大学を……「指定国立大学」って何?

文部科学省は、世界最高水準の教育研究を行えるよう、国立大学の規制を緩和する「指定国立大学」の創設を柱とする国立大学法人法改正案を、国会に提出しました。世界トップレベルの大学の業務運営状況などを踏まえた目標を立て、その目標実現のために海外から優秀な人材をスカウトできるよう高額の給与を設定したり、ベンチャー企業などへの出資を可能にしたりするなどの規制緩和などを行います。これによって、ハーバード大学などにも負けない大学づくりを目指すことにしています。

  • ※国立大学法人法の一部を改正する法律案
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1367544.htm

大学の国際的競争力を高めるための方策としては、これまでも「スーパーグローバル大学」の指定、国立大学の3タイプの機能分化による「世界最高水準の教育研究型」大学の指定などがありました。しかし、「スーパーグローバル大学」は国公私立大学全体を対象にした制度である他、国立大学の機能分化による「世界最高水準の教育研究型」大学も、国立大学全体の統一された枠組みの中のものです。

これに対して、世界と競争できる国立大学をつくるため、特定の大学のみを支援する別枠の制度が必要であるとして、「特定研究大学(仮称)」の制度化が、政府の産業競争力会議で提言されました。その具体化を検討していた文科省の有識者会議が、2016(平成28)年1月に報告書をまとめ、それをもとに、国立大学法人法改正案が国会に提出されました。成立すれば、2017(平成29)年度から施行され、指定国立大学が誕生する予定です。

指定国立大学について、同改正法案では、「世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれるもの」とされています。ポイントは、目標設定の高度化と、規制緩和の二つといえるでしょう。大学の目標設定について、有識者会議の報告書は、「海外有力大学をベンチマークとした目標等を設定する」よう求めています。具体的には、論文数・論文被引用数、産学連携等収入、留学生受け入れ数などを、海外の有力大学並みの数字に設定し、その実現を目指していくことになりそうです。

規制緩和では、海外から有力な研究者などを招くために、高額の給与を支払うことができるよう、人事・処遇面での規制を緩和します。さらに、大学の研究成果を活用するベンチャー企業などに指定国立大学が直接出資できるようにする他、寄付金などの余裕金を金融商品などに投資できるようにするとしています。米国の有力大学などは、卒業生や企業などから膨大な寄付金を集め、それを運用して大学予算の多くを捻出しています。指定国立大学についても、国からの運営交付金に頼るだけでなく、自己資金力の強化を求めているようです。
この他、同改正法案では、国立大学全部に余裕金を金融商品などで運用することを認めていますが、こちらは運用に当たり、文部科学相の認定を受ける必要があります。

指定国立大学になれば、大学の在り方そのものが大きく変わることも予想されます。東京大学をはじめとして、どのような大学が何校程度指定されるのか、保護者にとっても注目されるところでしょう。

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

子育て・教育Q&A