これからは「長所を伸ばす教育」も重視へ‐渡辺敦司‐
日本の公教育(私立学校での教育を含む)は、明治から戦後を通じ、個人が社会で活躍する機会の基盤になるとともに、日本の成長を大きく支えてきたことは、疑いがありません。だからこそ既に紹介したように、諸外国からも注目されています。しかし、学級を中心とした一斉授業など「集団の教育力を生かした指導」には長けていても、「多様な個性に応じたきめ細かい対応」はまだまだ十分でないことも確かです。そこで政府の教育再生実行会議では、これまでの教育の強みは引き続き大事にしながらも、「多様な個性が長所として肯定され活(い)かされる教育」に転換することを検討しています。
同会議では、多様な個性の具体例として、(1)ある面で特異な才能を持ちながら集団生活になじみにくい子ども (2)発達障害・学習障害のある子ども (3)不登校の子ども (4)学年に比して学力が非常に高い子ども、非常に低い子ども (5)家庭の教育力に課題のある子ども (6)日本語能力が十分でない外国人の子ども……を挙げ、他と違うことを「駄目なこと」ではなく、これからの日本に必要な「多様な個性」として積極的に認めて受け入れ、その力を最大限に伸ばし、生かせる学校教育や社会に転換するよう検討するとしています。それには、学校だけで対応しようとするのではなく、学校外のさまざまな関係者や関係機関・団体とも連携しながら、社会全体・地域全体ですべての子どもたちの力を伸ばすという発想に立つことが重要だといいます。
発達障害を例に考えてみましょう。文部科学省の推計によると、通常の学級で特別な配慮を必要とする発達障害の可能性のある児童生徒は6.5%で、40人学級なら2・3人いる計算になります。発達障害は「発達の凸凹」ともいわれるように、なかなか他の子のようにできない「凹」がある一方で、飛び抜けた才能を示す「凸」を持っていることも少なくありません。しかし、集団教育を中心とする通常の学級内では、単に「変わった子」というだけでなく、「困った子」「扱いにくい子」とされることも少なくありません。これに対して欧米などでは、そうした子どもを「ギフテッド」(先天的に与えられた才能を持つ子ども)と捉え、マイナス面よりもプラス面をさらに伸ばす教育が盛んに行われています。
障害者とされる人でも、最近では「アール・ブリュット」(生<き>の芸術)の担い手として注目が集まっています。これも、普通の人のようにできないことに注目するよりも、普通の人ではできない才能を生かしてもらおうという発想です。また、障害者雇用を増やして細かい作業にも集中して取り組むなどの特性を生かしてもらい、売り上げを伸ばす「ダイバーシティー」(多様性)の発想を取り入れた企業も出始めています。
外国をルーツに持つ子どもはグローバル人材の卵になる可能性を秘めていますし、貧困家庭に育った子どもは、人の痛みがわかるだけに、支援される側から支援する側に回ることができれば、大きな力を発揮することでしょう。政府が掲げる「一億総活躍社会(外部のPDFにリンク)」の実現のためにも、教育面の一層の充実が期待されているのです。