なぜ「思考力」が求められる?(前編) これからの社会を生きる子どもに家庭でできること

子どもの学びについての調査・研究に取り組むベネッセ教育総合研究所では、子どもの思考力の育成についても研究を続けています。これから3回にわたって、同研究所研究員の小野塚若菜が、思考力を育む大切さとご家庭でできるポイントについて、共同研究者である鳴門教育大学大学院の泰山裕准教授と、東京学芸大学の中村和弘教授にうかがいます。前編は、これからの教育において、思考力の育成がより重視される理由についてです。

思考には、比較や分類など、さまざまな技法がある

小野塚 2020年度から、小学校では新しい学習指導要領が全面実施されました。そこでは、思考力・判断力・表現力等の育成がいっそう重要だと示されています。ここでの思考力・判断力・表現力とは、具体的にどういった力を指すのでしょうか。

泰山 私たちは「考える」とよく言いますが、実はそこには多くの意味が含まれます。例えば、国語と算数とでは、言葉では同じ「考える」としても、何を対象にどのように考えるかは異なります。私の研究では、「考える」という行為を具体的に捉えるために、各教科の学習指導要領や教科書の内容から、子どもに求められる思考パターンを、「比較する」「分類する」「関連づける」というように具体的な技法として整理しました。教科の学びを通じて子どもが身につけたそのような「考えるための技法」を、状況に応じて適切に活用し、問題解決できる力こそ、「思考力・判断力・表現力」だと、私は捉えています。

中村 人は、言葉を使って思考します。思考と言葉のどちらが先に育つかというと、「鶏が先か、卵が先か」という話と同じになってしまいますが、思考力とともに言葉が豊かになっていくと、頭の中で考えをまとめたり、自分の意見を適切に表現したりできるようになり、生活や学習をより充実させることができます。
そうした力が身につくと、何事についても、まず自分なりに考えてから他者に意見を求めるといった前向きな姿勢が見られるようになります。ご家庭でも、「これについてどう思う?」など、お子さまから質問をされるようになるかもしれません。そうした質問に答えて子どもの意欲を認めることが、思考力をさらに高めることにつながるでしょう。
これまでは、まず知識を習得することが重視されていましたが、これからは、ある程度の知識を基にして思考する中で、自分で足りないと思った知識を学んでいくことが求められます。そうした学びのサイクルを通じて、知識、思考力、意欲などが相互に関連しながら高まっていくのです。

答えが見えない中でも、自分で考え、行動する力が重要に

小野塚 では、今なぜ、思考力の育成が強く求められるようになったのでしょうか。

泰山 社会の大きな変化が背景にあります。グローバル化や科学技術の急速な進展などを背景に、これからどのような社会になっていくのかを見通すことは難しくなっていて、私たちはさまざまな要素がからみあう問題に直面しています。新型コロナウイルスの世界的な流行による混乱は、まさにその典型例といえるでしょう。
コンビニエンスストアでセルフレジをよく見かけるようになったように、やり方に正解があるようなことは、人の代わりにコンピューターが担うようになっていくと考えられます。コンピューターが社会にどんどん浸透していったら、人間は何をすればよいのか。その1つは、決まった答えが存在しない、複雑な問題について考え抜き、多くの人が納得できる答えを導き出すことではないでしょうか。何をすればよいかを、誰も教えてくれない状況で、さまざまな情報を集め、考え、判断し、行動しなければなりません。そのような行動をとれるようになるためには、知識ももちろん大切ですが、それだけではなく、知識に基づいて考えて判断したり、自分の考えを主張したり、交渉したりするときに、思考力が必要になるのです。

中村 人は不安を感じると、より強い意見に引っ張られやすくなります。しかし、より強い意見がすべて正しいとは限りません。
自分の頭で考えられる人は、多様な情報を基に、現在の状況をどう捉えるべきか、そして自分が何をすべきかを考えられます。周囲の意見をそのまま受け入れるのではなく、よいところを取り入れながらも、自分で問い直したり考えたりしながら、問題の解決に向かうことができるはずです。仮に失敗しても、試行錯誤をくり返して、前に進めるのです。思考力は、そうした行動を支えてくれる土台だといえるでしょう。

まとめ & 実践 TIPS

知識が大切であることに変わりはありませんが、将来を見通しにくく、問題がより複雑になっている社会を生きていくためにより大切なのは、知識を使って自分なりに考えて、判断し、行動していくことです。中編では、学校の授業が、そのような思考力を育むことを目指して変化してきていることについてお伝えします。

泰山裕(たいざん・ゆう)

鳴門教育大学大学院 学校教育研究科准教授。園田学園女子大学講師を経て、現職。専門分野は、思考力育成、授業設計、授業研究、教育工学、情報教育。学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(中学校「総合的な学習の時間」)や文部科学省「次世代の教育情報化推進事業」企画検証委員などを歴任。

中村和弘(なかむら・かずひろ)

東京学芸大学教育学部教授。神奈川県川崎市の公立小学校教諭や東京学芸大学附属世田谷小学校教諭を経て、現職。専門分野は、国語科教育学。中央教育審議会「言語能力の向上に関する特別チーム」委員、学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(小学校国語)などを歴任。

小野塚若菜(おのづか・わかな)

ベネッセ教育総合研究所言語教育研究室研究員。筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了。専門分野は日本語教育、言語テスト。言語能力の育成や評価・測定について関心を持っている。

≪参考≫
ベネッセ教育総合研究所
新学習指導要領で求められる「言語能力」の育成とは~言葉を通して思考力を育む~
https://berd.benesse.jp/feature/focus/27-gengo/

プロフィール

ベネッセ教育総合研究所

株式会社ベネッセコーポレーションの教育、調査、研究機関です。子ども、保護者、先生、学校などを対象に、教育に関連する調査、研究を行い、その研究成果や調査報告書、各種データを無償で公開しています。

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