ICT導入で、何の学力を伸ばす?‐渡辺敦司‐
パソコンの導入などで学校のICT(情報通信技術)環境を充実させても、学力は必ずしも伸びるわけではない……そんな分析結果が、波紋を広げています。デジタル機器は、本当に効果がないのでしょうか。また、この分析結果からは、何を読み取るべきでしょうか。
分析は、代表的な国際学力調査であるPISA(生徒の学習到達度調査)を実施する経済協力開発機構(OECD)が、2012(平成24)年のPISAの調査結果をもとに行ったものです。この分析では、教育用パソコンを増やすなどICTに大きな投資をした国に、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの各分野の成績での、目立った向上は見られませんでした。逆に、日本を含めたPISAの成績上位国は、パソコン整備だけでなく学校でのインターネット接続環境が、必ずしも整っていませんでした。
OECDのアンドレア・シュライヒャー局長も、パリ本部と東京を結んだTV会議方式の記者会見で、困惑した表情を見せながらも「授業での効果的な使い方を見つけなければいけない」と話していました。一方で、日本のような国では、機器などの整備が遅れていても「(適当にではなく)慎重に考えて画面をクリックしている」といったように、ICTの効果的な使い方ができているといいます。
日本では、国の定めた目標値に比べてICT整備が遅れていること、自治体間の格差も広がっていることは、以前の記事で指摘しました。しかし、そうした整備の遅れが、ICT環境整備と学力向上には必ずしも関係がないことを裏付ける、皮肉な結果となったわけです。
よくよく考えれば、ただパソコンやネット環境をよくするだけで学力が向上するというのは短絡的に過ぎるのかもしれません。授業と全然関係ないサイトを見たりしていては、勉強に身が入らないのも当然です。学力向上には、心の授業がちゃんと成立していることが大前提であり、それ自体はICTとはまったく別の話です。アナログの授業が成立しているからこそデジタル機器が生きてくるわけで、ICT機器が生身の先生の代わりになるわけではないということです。
実際、ICT教育の先進地といわれている自治体の授業を見ても、授業を全部ICTに頼っているわけではありません。黒板とチョークによる板書も大事にしていますし、たとえば算数・数学の図形にしても、電子黒板だけでなく、模造紙の切り抜きを黒板上で並べ替えたりもしています。要は、どういう提示の仕方をすれば児童生徒がわかりやすいのかを第一に考え、工夫することが大事です。
一方で、デジタル機器を使ったほうが伸ばしやすい資質・能力もあるはずです。シュライヒャー局長は「協力して問題を解決する能力など、21世紀型スキルを高めることができるだろう」との見通しを示していました。
ICT機器は、万能ではありません。重要なのは、ICT機器を使ってどのような資質・能力を伸ばすのかを明確に位置付けて授業で活用することであり、デジタル機器の有効な活用方法を含め、教師の授業力を向上させることだといえるでしょう。