ICT導入、学校の課題は?‐渡辺敦司‐

学校への情報通信技術(ICT)導入にさまざまな教育効果があることは、先にお伝えした「学びのイノベーション(革新)事業」の報告書など、各方面から実証研究の成果が示されています。しかし同事業が「事業仕分け」で打ち切りとなったことに象徴されるように、まだまだ費用対効果の面で後押しがなされるような劇的な効果までは証明されていないようです。同事業の成果を踏まえて今後の課題を話し合う文部科学省の有識者会議「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会」で3回にわたって行われたヒアリングから、課題を探ってみましょう。

もちろん子どもたちは、最新の機器を使って勉強することが大好きです。タブレット端末のビデオ教材で予習をしてから学校の授業に臨む「スマイル学習」(武雄式反転授業)に取り組んでいる佐賀県武雄市立武内小学校の代田昭久校長(兼同市教育監)は「ビデオを見てこなかった子は一人もいなかった。タブレット学習は面白いからだ」と報告しました。一方、「教えて考えさせる授業」を提唱し、現行の学習指導要領にも大きな影響を与えた東京大学大学院の市川伸一教授(教育心理学)は「ICTを使う必要がなかったり、使わないほうがよい場面でもICTを使ったりする混乱が学校現場にあるのではないか。初等中等教育(小・中・高校段階の教育)で遠隔教育や反転授業は有効なわけでも一般的なわけでもない」と注意を促しました。要はいかに効果的な使い方をするか、先生の指導力にかかっているというわけです。

全国5自治体の公立小・中学校と連携してタブレットや授業支援システムの試行をしてきたNTTの担当者は、アンケート結果から「効果実感は授業構想力と相関し、ICTスキルとは無関係」と指摘しました。授業の達人がICTを使えば効果を上げられるが、いくらICTの操作に長けていても授業力のない先生に効果が上げられるわけがないということです。一方で「教員の授業構想力はICTの活用経験によって高まる」こともわかりました。達人にICTを積極的に活用してもらい、その授業に学ぶことで、学校全体の授業力が引き上げられる……。ICTの積極導入で、そんな好循環が期待できそうです。
ICTの整備は従来型の学力を向上させるだけではありません。個別学習はもとより、お互いに画面を見ながら話し合ったり、発表し合ったりすることで、「協働学習」と呼ばれる新しいスタイルの学習ができます。これからの社会が求める能力を探る「21世紀型スキル」の国際プロジェクトに日本人で唯一参加している東京大学の三宅なほみ教授は、21世紀型スキルの育成に「ICTが堪能であることは前提」だと強調しました。

ベネッセ教育総合研究所の新井健一理事長は、同研究所の調査などをもとに「先生方は意識の準備はできているが、協働学習や個別学習をやりたくても、一斉型授業の環境のままでは進まない」と指摘しました。機器の整備と並行して授業研究を十分行える環境も整えることが、未来志向の能力育成には不可欠のようです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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