人文社会系だけじゃない!? 理工系大学にも産業界とギャップ
文部科学省が国立大学に対して、教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院の廃止・転換を通知したことが大きな話題となり、日本学術会議が批判声明を出すに至ったことは、このコーナーでも紹介してきました。
ただし、同通知をめぐっては、一律に国立大学の文系学部を廃止しようとか、教員養成は私学でやればよいとかいうことを意図したものでは決してありません。人文社会系に関しては、あくまで社会の要請などを踏まえた見直しを求めたものですし、教員養成系については、教員免許を出さない「ゼロ免課程」の廃止・他学部転換を求めたものです。だからといって、理工系に問題がないというわけではありません。一端を示すデータ(外部のPDFにリンク)が、文科省と経済産業省が設置する会議に提出されています。
アンケートによると、IT(情報技術)系などのように「企業における現在の業務で重要だが、大学で学ぶ必要がない専門分野」が多く設置されていたり、必ずしも教育ニーズが高くない分野に多くの研究者が所属していたりする実態があるというのが、産業界の認識です。理工系においてすら、産業界のニーズと、大学での人材育成が、必ずしもピタリと一致しているわけではないのです。
もちろん、大学は産業界だけのためにあるわけではないため、最先端の研究を行うべき大学が「企業の現在業務の求める技術とギャップがあるのは当然」(資料)なのですが、「産業界の将来のニーズ」と「大学教育との間のミスマッチがないように」(同)する余地はまだまだあるというわけです。国立大学に限った調査ではありませんが、大学側の実態は国公私立を問わないものと見られます。
ここから、何が浮き彫りになるのでしょう。大学の役割には教育と研究の両面があり、もちろん研究も重要だけれども、だからといって教育、もっと言えば大学卒業後に就職をするための教育をおろそかにしてはいけないということです。もちろん大学で学ぶ専門分野と、就職先を完全に直結させる必要はありません。ある分野を深く学ぶことを通じて、ほかの分野にも活用できる能力が身に付くことはありますし、それこそが高度な学問を学ぶ大学の意義でもあります。しかし、いま問われているのは、大学教育は、本当にほかの分野にも転嫁できるような汎用的能力を身に付けさせているのか、ということなのです。
国立大学で人文社会系がターゲットになっているのは、たとえば文学を教えることを通じて、卒業生が企業で働いても、活躍できる力を育成していなければ社会的要請には応えられないのではないか、という問いかけです。卒業生のほとんどが就職する以上、研究者養成を中心にしたようなカリキュラムを続けていてよいのか、というわけです。また、カリキュラム自体も、担当する教官が自分の研究している分野を好きに教え、学生がそれをつまみ食いする形で単位を取るだけで、本当に大学全体として胸を張れる卒業生を育てているかという問い掛けも含まれています。人文社会系は、理工系に比べれば社会のニーズへの対応が遅れているという認識があったからこそ今回のターゲットになったわけですが、社会との関係が問われているのは、理工系も同じなのです。