コンピューターで脳を再現する巨大プロジェクトとは?

前回、概要をお伝えした人間の脳を再現する巨大プロジェクト「Human Brain Project(HBP)」。脳を再現すると言っても、いったいどうするのでしょうか? 頭に電極を刺したり、解剖して構造を見たりするのか、など色々な妄想が広がりますが、そんなことはできればしたくありません。脳を取り出したり、傷つけずに再現するにはどうすればいいのでしょうか?


部品から完成図を想像する

 ベースとなっているのは、リバースエンジニアリングという手法。普通、何かを作るときには、まずどう作るかを設計してから部品を集めて組み立てる、ということをしますが、リバースエンジニアリングではその逆に、すでにある物を基にして、どういった部品を使ってどう設計されているのかを考えて模倣品を作ります。

 

この手法を使って、HBPではすでにある物「脳」を再現しようとしているのです。

 

 

脳は何でできている?

 さて、この手法をつかっていくためには、まず脳の構成から考える必要があります。脳には細胞を作っているタンパク質、情報を流す神経細胞(ニューロン)、そして神経細胞に栄養を送り、情報伝達をコントロールするグリア細胞といった構成要素があります。脳に蓄えられた情報自体は束になった神経細胞でできていて、長い繊維を伝って細胞から細胞へと伝わっています。こうした生きた組織から集めたデータを基に、脳内の情報の流れをコンピューターで構築していくのです。

 

 


データからわかる脳の基本機能

 ではいったいどうやって脳のデータを集めるのでしょうか。データを集めるにはやはり脳に電極を…と思うかもしれませんが、1,000億円以上も研究費が集まるプロジェクトで、そんなアナログすぎる方法はとりません。

 

使うのは、脳そのものではなくて、脳の神経細胞の一部。すでに完了したHBPの前段階のプロジェクト「Blue Brain Project」では12個の容器に入れたラットの神経細胞に、光を当てるなどの刺激を加えることで、脳細胞がどう反応するか詳細なデータをコンピューターに記録。実験を繰り返し、記録されたデータを解析することで、脳細胞の基本機能を明らかにしました。すでに1万個の神経細胞を持つラットの脳の基本構造は再現され、3,000個の神経細胞のつながりも確認されています。

 

この方法はHBPの基本ともなっています。脳そのものをいじくりまわして、どうこうしようというわけではないのです。コンピューターで再現するのですから、脳の有機的な側面だけを見ていても仕方ありません。実際、現在の脳科学研究では、神経学者や生物学者ばかりが活躍しているだけではなく、機械やコンピューターを使った再現実験を行うことで、解剖しているだけではわからない、脳の働きを明らかにしようとしています。

 

調べれば調べるほど疑問が湧いてくる人間の脳。すべてが明らかになる日がくるのでしょうか?まずはHBPが完了する2023年が待ち遠しいですね。

 

 

柏井カフカ

サイエンスライター。
博士号取得後、「科学を世に広めることで、専門家に頼りきりにならない社会を作りたい」と考え、さまざまな記事を手がける。記事のジャンルは専門分野の物理のほか、最新の科学・医療トピックや、IT技術の紹介など多数。

 

 

参考:

Human Brain Project

https://www.humanbrainproject.eu/

 

 

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