冬の直島で現代アートを鑑賞するナイトツアーの静謐さ 「ベネッセハウス」「家プロジェクト」に没入する体験を【直島アート便り】

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草間彌生「南瓜」 写真:(右)安斎重男

「美術館」と聞くと、白い壁に囲まれた空間を想像するかもしれません。そうした美術館のイメージと対極に位置する「ベネッセアートサイト直島」では、多くの作品が自然のなか(屋外)に展示されたり、建物に取り込まれた自然光によって鑑賞できるように設計されています。今回は、異なる時間帯に同じ作品を見ることで新たな気づきを生む、現代アート鑑賞のおもしろさについてご紹介します。

この記事のポイント

自然のなかにあるアートだからこそ、時間による違いが楽しめる

日没時間が早まる冬。「南瓜」のある突堤周辺は、昼間は行き交う人々で賑わいますが、夜になると人影がほとんど見当たりません。波と風の音、ときどき船の汽笛も聞こえ、ゆったりとした静かな時間が流れます。宵闇に浮かび上がるような黄色い南瓜と黒いドットは、明るい太陽の元で見るときとはまるで違う作品のようにすら感じられます。「光」と「闇」の対比は、ベネッセアートサイト直島の持つ魅力のひとつでもあります。

ベネッセアートサイト直島では、冬季は一部の施設の開館時間を短縮します。その一方で、日没後でも様々な場所でアート体験ができるのをご存じでしょうか。たとえば「ベネッセハウスミュージアム」をとりまく海岸線や林の中に点在する17点の屋外作品は、24時間いつでも鑑賞可能です。「朝も夜も、素敵な景色を満喫できました」というゲストの声が示す通り、海岸沿いをゆっくり散歩するなかで出合う作品は、自分の心を映し出す鏡にもなりえます。

ベネッセハウス ミュージアム 写真:(左)藤塚光政 (右)山本糾

朝、昼、夕方、夜…異なる時間帯に鑑賞できるミュージアム

ベネッセハウス ミュージアムは「自然・建築・アートの共生」をコンセプトにした、美術館とホテルが一体となった施設です。瀬戸内海を望む高台に建ち、大きな開口部から島の自然を内部へと導き入れる構造の建物は、安藤忠雄の設計です。 絵画、彫刻、写真、インスタレーションなどの収蔵作品の展示に加え、アーティストたちがその場所のために制作したサイトスペシフィック・ワーク(※1)が恒久設置されています。

(※1)特定の場所に属する作品や置かれる場所の特性を生かした作品、その性質や方法、経過のこと

杉本博司「タイム・エクスポーズド」 写真:(右)安斎重男

ベネッセハウス ミュージアムは、一般の方は8時から21時まで(新型コロナ対策で10時から18時に開館時間を短縮中)、ホテル宿泊者はさらに23時まで、作品の鑑賞が可能です。季節や天候によっても変化しますが、瀬戸内海に夕日が沈む瞬間が、「自然と建築とアート」の調和が最も美しく感じられる瞬間です。また、ブルース・ナウマンの「100生きて死ね」や、安田侃の「天秘」の展示空間も、昼と夜では見え方がまったく異なります。「天秘」の上に寝転がって空を仰ぐと、まるで額縁のような壁面に切り取られた空に、満天の星や飛行機が見えたり、雲が流れたり、刻々と自然が変化していくおもしろさが味わえます(新型コロナ対策で「天秘」の体験鑑賞時間は10時半-11時半に制限中)。

安田侃「天秘」 写真:(左)藤塚光政(右)山本糾

ホテルに宿泊したゲストからは「ずっと楽しみにしていた夜の美術館。空間、音、光、景色…。この何もなく、すべてがある空間によって、自分と向き合う贅沢な時間を過ごせました」などの声が寄せられています。静かな夜を過ごすことによって、おのずと自分との対話を深めるような仕掛けが、ベネッセアートサイト直島にはあるのかもしれません。

家プロジェクト「はいしゃ」 大竹伸朗「舌上夢/ボッコン覗」写真:(右)鈴木研一

「自分が作品の一部になったように感じられる」家プロジェクト・ANDO MUSEUM ナイトツアー

家プロジェクトおよびANDO MUSEUMでは、閉館後の施設をスタッフがご案内するナイトツアーを、期間限定で開催しています。本ツアーではアート施設や町中に点在する屋号プロジェクト(※2)を、スタッフがゆっくりガイドしながら、徒歩で巡ります。夕方から夜にかけて徐々に暗くなるなかで見るアート作品は、日中よりも陰影が濃くなって、まったく異なる魅力を発揮します。「はいしゃ」の2階では、昼間は外の光を取り込むガラスが、夜はネオンで輝く作品を鏡のように反射します。参加者からは思わず、「昼間とまったく印象が違う。作品に自分がぐるりと囲まれているようだ」と感嘆する声があがりました。外部から差し込む光が弱くなった「角屋」では「光のなかに自分の影が映し出され、内と外を強く意識」し、自分が作品の一部になったような没入感を感じられます。これらは、別の時間帯に同じ作品を見たからこそ気づける鑑賞体験です。

(※2)古くからある家のニックネームである「屋号」を、ステンレス製門札で掲示する直島町のプロジェクト。

家プロジェクト「角屋」 宮島達男「Sea of Time ’98」写真:(右)鈴木研一

自然や人とともに変化し続ける「アート鑑賞」のコツを日常に生かす

ベネッセアートサイト直島には、自然の景観とともに楽しめるアートが数多くあります。そうした作品を鑑賞したゲストからは「季節の移ろいと自然の恵みを享受していることに感謝。人間もその一部であることを、芸術を通して改めて認識できる」「暗闇でも地下でも、気がつくと明るい方を探していた。人間は、知らないうちに光を求めている」などの声が寄せられ、非日常の体験が、視野を広げるきっかけになっていることがわかります。

日常の生活でも、対象物の周りの環境を意識して変化に気づき、楽しむことで、ものの見え方が変わってきます。現代アートの鑑賞にただひとつの正解がないのと同じく、何をおもしろいと感じるか、それをどう表現するかは十人十色です。大空を染め上げる夕日の美しさ、早朝の凛とした空気や匂い、満月のまぶしいほどの明るさなど、いつもと少し違う時間帯に、心が震える出来事に出会ったときは、それを言葉にしてみませんか。誰かに伝えたり、書き留めたりすることで、あなた自身の価値観が浮かび上がってきます。それが心や生活をより豊かにする一助になるのではないでしょうか。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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