山は、自立心を育ててくれる~安全に親子登山を楽しむために~【前編】

休日には、家族でのハイキングや山歩きを計画されているかたも多いかもしれません。『4歳からはじめる親子トレッキング』等の著者であり、11年間でのべ5,000人以上の親子に山歩きの楽しさを伝えてきた「親子山学校」主宰の関良一さんに、親子登山の魅力と注意点について伺いました。


御嶽山の噴火災害を受けて

2014(平成26)年9月27日に発生した御嶽山(長野・岐阜県)の噴火では、子どもを含む数多くの登山者の方々が犠牲になりました。痛ましいという以外、言葉が出ません。火山国の日本で生きる以上、地震や噴火のリスクと常に向き合っていかなければならないことを改めて実感させられました。
どうしても避けられない危機は、たしかにあると思います。しかし、都市近郊の低山で、安全に注意しながら親子で山歩きをすれば、子どもの危機管理能力を育てることができるのではないでしょうか。
今回の噴火があったからこそ、山歩きを通じて子どもたちに伝えるべきことがあると感じています。



山で子どもたちが学ぶこと

登山は、常に自分の体で移動していくスポーツです。
傾斜がきついところ・緩やかなところ、石がごろごろしているところや木の根っこが突き出したところなど、足元の状況はつねに変化し、天候も刻々と変わり、体や心の状態も変化していきます。その変化を一日かけてたっぷり味わうのが、山歩きの楽しみです。
山で必要となるのは、自分で自分の身を守る力です。暗くなってから山で行動するのは危険ですから、必ず日が傾くまでに帰ってこなければなりませんし、万が一の場合を考えて、水や食糧、防寒具などを用意しておく必要もある。自立心を養うには格好の場です。
近年の「山ガール」ブームなどで山歩きする人は若年化していますが、子どもを巻き込んだ深刻な事故も起きています。ハイキング感覚で行ける山でも、危険はゼロではありません。でも、「さまざまな障害を乗り越えて無事に帰ってくる」までが登山であり、そこにこそ楽しみがあります。自然の中、親子でたっぷりと時間をすごし、「今日の山は面白かったね」と喜び合えたら、それは忘れられない思い出になるに違いありません。
十分な準備と計画のうえ、ぜひ親子で山に出かけてみてください。



準備も楽しもう

山デビューは、体力や判断力がついてくる4歳くらいからが適当だと思います。危険をきちんと理解し、大人の指示に従えるかどうかがポイントです。
初めての山は、たとえば首都圏なら高尾山や御岳山など、登山者が多く、情報も豊富な近郊の低山がよいでしょう。ケーブルカーやリフトを利用すれば、子ども連れでも2~3時間で帰ってこられるのがポイントです。運動靴で大丈夫な山もありますが、けがや事故を防ぐ「保険」のつもりで、できればきちんとした登山靴を準備してあげてください。専用の登山靴とザックを用意してあげると、子どもの気持ちも盛り上がります。
準備が整ったら、ざっと計画を立てましょう。親子登山の場合、ガイドブックに書いてある標準的なコースタイムの1.5倍を目安にしてください。午後は天気が変わりやすいので、山は早朝出発が基本です。日の長い夏場でも、午後3時までには必ず下山するようにしてください。秋・冬は日が短くなっているので、特に早め早めの行動を心がけましょう。余裕のある計画を立てれば、途中でゆっくり昆虫や植物を観察したり、遊んだりする時間もできます。入山と下山の時間だけはきっちり守れるよう、時間管理をすること。「行き当たりばったり」にならないことは、安全のためにもとても大切です。



これだけは守ってほしい、親子登山の鉄則!

安全のために、必ず守ってほしいことは、以下の2点になります。


・子どもを一人にしない
・子どもには道の山側を歩かせ、大人は谷側をガードするように歩く

近年起きた、子どもが巻き込まれた山の事故に共通しているのは「子どもの単独行動」です。たとえば、ある男の子が「先に行っているね」と言うので「じゃあ頂上で待っていて」と行かせてしまった結果、そのまま遭難してしまった事例。また、女の子がトイレに行くと家族から離れたあと、登山道から谷に滑落し重体となるなど、痛ましい事故も起きています。このような事故を防ぐためには、少しの間でも子どもを一人にしないことが大切です。
また、登山道の谷側は、足を滑らせる危険も多いものです。必ず子どもには道の山側を歩かせ、大人は谷側をガードするように歩きましょう。
この2つを徹底することで、山の事故の確率は大きく下がります。



大人は先回りせず、「なぜ危ないか」を身をもって伝える

これらの鉄則は、子どもに繰り返し伝えましょう。「なぜ危ないか」をきちんと伝えたうえで、子どもにできることは任せるのが大切です。危ないからといって、大人が先回りして「そこを歩いちゃだめ、ここに触っちゃだめ」と口を出していては、危険を自分で感じ取る力や自立心は育っていきません。
たとえば「子どもは山側を歩く」ルール。しっかり手をつないで、谷側の道を「ここちょっと踏んでごらん」と声をかけてみます。「ここは地面がもろいでしょ。走ったりしたら下に落ちちゃうよね」というふうに。危ない理由を実感できれば、子どもはルールをきちんと覚えてくれます。たまにルールを忘れる保護者がいると、「お母さん、こっちが山側だよ」と逆に教えている子どもの姿も見かけます。
滑りやすい道を、どんなふうに歩けばより安全か。お父さんお母さんから見えない場所で万が一足を滑らせたら、見つけてもらえないかもしれないから、ちゃんと一緒に歩こう……などと、自分の身を守る感覚を体で覚えると、子どもたちは見違えるようにたくましくなっていきます。

後編では、さらに親子登山を楽しむコツと、山から学べることについて伺います。


プロフィール


関 良一

1957(昭和32)年北海道生まれ。2003(平成15)年より「親子山学校」を主宰。幼児から小学生を中心に、これまでのべ5,000人以上の親子に山歩きの楽しさを伝えてきた。著書に『4歳からはじめる親子トレッキング』(旬報社)などがある。

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