山は、自立心を育ててくれる~安全に親子登山を楽しむために~【後編】

前回に引き続き、「親子山学校」主宰の関良一さんに、親子登山を楽しむコツと、山から学べることについて伺います。



「山デビュー」で大切なこと……小さな子にも、ルートの概要を伝えて 

初めての山登りの際は、前回述べた「鉄則」について、きちんと説明してあげてください。そして、たとえ小さな子でも、登る山やルートの概要について、ある程度イメージがわくように伝えるとよいですね。ご自身が初めて行く山の場合も、ガイドブックを見ながら「このお山は、中腹のあたりからわき水が流れ出しているんだよ。だから、頂上に行くためには川沿いを歩いて橋をいっぱい渡るんだよ」とか、「途中に大きな木があるよ」「お天気がよければ、頂上からこんな景色が見えるんだって」などと、物語を聞かせるように話してあげてください。目的地までのイメージが子どもなりにつかめると、知らない場所に行く不安も和らぎますし、期待もふくらんできます。説明もなしにただ歩かせていると「どこに連れて行かれるんだろう」「まだ歩かなきゃならないの?」などと、次々に不安が生じてしまいます。
また、まずは30分、ゆっくりでかまいませんので、子どもが休まずに歩き続けられるよう、励ましてあげてください。子どもが「疲れた」と言うたびに休んでいては歩く力はつきません。しりとりや歌で気分転換しながら、特にスタートの30分を楽しませることを心がけましょう。



「ゆっくりでいいから、あそこまで一緒に歩こうね」

親子登山に出かけてみたいけれど、うちの子はあまり体力がないし、大丈夫かな……と思われる保護者のかたも多いかと思います。
私の場合は、長男は4歳のとき、長女は3歳半のとき、初めて山に連れて行き、非常に喜んでよく歩いたのが親子山学校を始めたきっかけでした。二人とも、泣いたりぐずったりはまったくしない子だったのですが、親子山学校にやってくる子どもたちの中には、登山口に着く前からずっと泣きどおしといった子も時々います。初期のころは「これは無理だ」と判断し、保護者のかたと一緒にお帰りいただいたこともありました。
しかし、子どもたちの話を聞いてあげるうちに「知らないところに行くのが不安」とか、「年長の子たちのように、すいすい登っていけないのがくやしい」といった気持ちで泣いていることも多いのがわかってきました。
そういう気持ちを受け止めながら、「泣いていてもいいし、ゆっくりでいいから一緒に歩こうね」と励ましていると、いつの間にかけろっとして、元気に歩き出す子もたくさんいます。そのうち、「ほら、あそこが頂上。あと100メートルだよ」と言うと、お日さまが差すようにぱーっと表情が変わる。何度か山を経験するうちに体力も自信もついて、「あれが最初はびーびー泣いていた〇〇ちゃんなのかな……」と思うほどの成長を見せてくれたりもします。
もちろん、体調が悪くてぐずっている場合もありますので、無理は禁物なのですが、少しどーんと構えながら「どうして泣いているのかな?」と子どもの様子をよく観察することが大切です。



四季折々、別のお友達と……同じ山を繰り返し味わおう

大人は「百名山めぐり」など、次々と別の山に挑戦したがりますが、特に小さな子どもの場合は、同じ低山を繰り返し登るほうが向いています。
子どもは基本的に、保守的な生き物で、知らない世界に足を踏み入れることに警戒心を覚えます。一つの山に繰り返し登ると、そこが子どもにとって身近なものになり、安心して山と向き合うことができます。
お子さんが初めての山登りを楽しむことができたら、ぜひ「またあのお山に行ってみようか? このあいだは秋だったけれど、春になるとこんな花や、こんな虫が見られるかもしれないよ」というふうに誘ってみてください。違う季節に、別のお友達と登ったり、ルートを変えて登ったりすることでより豊かな体験ができるはず。大人も、「この調子でいけば頂上に〇時に着くかな」「だったらここで気の済むまで遊ばせよう」などと、時間と距離の感覚が体に入ってきて、経験を積む楽しみが味わえると思います。



大人も「まっすぐに歩く」ことが大切

山では、進む道に対して、常に体を正面に向けて歩くことが大事です。視線もまっすぐ前に向けます。それができると、たとえ路面が悪くても安定した歩きになります。平坦な道なら多少転んでも平気ですが、山道での転倒は危険につながります。最近、まっすぐに歩けない子どもが増えていると感じます。
子どもの歩く力をつけるにはまず、大人自身がまっすぐ前を向いて歩くことが大切です。街中で手をつないで歩くときも、子どもを気にして、子どものほうばかり向きながら歩くと、子どもも大人のほうばかり見てしまい、体がねじれてぐにゃぐにゃした歩き方になりがちなのです。手さえつないでいれば、前を見ていたほうが、「車が来る」「あそこに段差がある」など危険も早めに察知できます。子どもたちと山に行くようになって、気付かされたことがたくさんあります。
お母さんと手をつないでよちよちと山道を歩いていた子が、数年たつうちに、自分でルートを見極め、年少の子たちを励ましながら見事なリーダーシップを発揮するようになっていく。そんな姿を見ていると、自分はこの先、年を重ねていくなかで、彼らに何を伝えていけるのかなあと考えたりします。「歩く」というシンプルな行為の中には、生きていくうえで大切なことがたくさん詰まっているのです。


プロフィール


関 良一

1957(昭和32)年北海道生まれ。2003(平成15)年より「親子山学校」を主宰。幼児から小学生を中心に、これまでのべ5,000人以上の親子に山歩きの楽しさを伝えてきた。著書に『4歳からはじめる親子トレッキング』(旬報社)などがある。

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