【FP解説】医学部の学費はどれくらい?卒業までの費用や利用できる制度は
- 教育費
医学部志望のお子さまがいるご家庭では、
「子どもが医師になりたいと言っているけれど、大学の医学部に6年間通わせるとなるとどのくらいお金がかかる?」
「夢を持ってくれるのはうれしいけれど、費用面が心配」
と疑問を持つ場合も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、医学部の学費についてご紹介すると共に、学費の負担を抑えるための情報についてファイナンシャル・プランナーの山本節子さんに教えていただきました。
お子さまが希望通りの進路を歩めるよう、まず保護者のかたが学費に関する知識を大まかに押さえておきましょう。
医学部の学費は?国立、公立、私立それぞれ解説
医学部を設立している国立大は全国で42校、公立大は8校、私立大は31校あります。※
国公立・私立に限らず医学部は6年制なので、4年制の学部に比べて学費がかかることを前提として知っておきましょう。
また、医学部進学に向けて塾に通うなどの準備も含めると、その費用も見込んでおかなければなりません。さらに、遠方の大学に通う場合は、交通費や一人暮らしにかかる費用もあるので注意が必要です。
国公立大と私立大の学費は大きく異なります。以下で詳しくご紹介します。
※2023年10月時点
国立大医学部の学費
国立大の学費は大学・学部にかかわらず基本的に一律です。
ですから医学部の学費も、入学金が28万2,000円、1年間の授業料が53万5,800円、6年間の合計金額は約350万円です。
一部の国立大ではこれらの金額よりやや高額ですが、大きくは変わりません。
公立大医学部の学費
公立大も、基本的には入学金・授業料ともに国立大と大きくは変わらず、6年間の学費は約350~400万円です。
ただし公立大の場合は、居住地域によって金額に差が出る場合も少なくありません。
以下に実例を挙げておきましょう。
●横浜市立大医学部の場合(2021年度実績)
・横浜市内居住者の入学金…14万1,000円
・市外居住者の入学金…28万2,000円
※横浜市立大学Webサイトより
https://www.yokohama-cu.ac.jp/admissions/about/fees/index.html#gakubu02
●名古屋市立大医学部の場合
・名古屋市内居住者の入学金…23万2,000円
・市外居住者の入学金…33万2,000円
※名古屋市立大学Webサイトより
https://www.nagoya-cu.ac.jp/admissions/fee/detail/
私立大医学部の学費
私立大医学部の場合は、大学によって学費が大きく変わり、6年間で約2,000〜4,500万円程度です。
一般的には、大学受験の偏差値が高い私立大のほうが、学費は低い傾向があります。
これは、学費が安いぶん、多くの高校生が受験するために倍率が上がるからです。
ただ、学費が比較的安い大学でも、6年間の学費を合計すると約2,000万円程度なので、国公立大と比べるとかなり高額なのは事実です。
医学部の学費はなぜ高い?
医学部進学を考えるにあたって、「学費が不安」と考えるご家庭は多いでしょう。
また、ここまでご紹介してきたとおり、私立大の場合は国公立大と比較して高額です。
なぜここまでの高額の学費になるのでしょうか?
まず挙げられるのが、施設設備費や実験実習費、教材費などが他学部と比べて多くかかること。
また、国立大と私立大の金額の差の要因として山本さんが挙げるのが、「国からの運営費交付金」です。
「運営費交付金とは、国公立大の収入不足を補うために国から交付される費用です。私立大にも、運営費交付金と同じ役割の『私立大学等経常費補助金』が交付されますが、国公立大と比較すると総じて金額が低い傾向がみられます。こうした交付金・補助金の違いが、学費の差につながっているのです」(山本さん)
なお、運営費交付金も私立大学等経常費補助金も、大学によって金額は大きく変わります。私立大の場合は、補助金が高いほど医学部の学費は安いと考えられます。
国公立大では各大学で学費に大きな差はないものの、運営費交付金を多く受けている大学なら施設・設備などが充実していると期待できます。
学費の負担を抑えるために利用できる制度は?
医学部の学費に関する実情を知るにつれ、「こんなに学費がかかるんだ」「こんな金額を用意できるかな」と不安に思うかたもいらっしゃるかもしれません。
とはいえ、お子さまの希望が強いなら、なんとか医学部進学を実現できないか考えたいですね。
そこで、少しでも学費の負担を抑えるための制度や民間サービスなどをご紹介します。
「利用する制度などによっては、将来どの地域・医療機関でどんな働き方をしたいか、キャリアプランをあわせて考える必要がある場合も。ただ、学費がネックで医学部進学をあきらめる前に、一度は調べて検討していただきたいと思います」(山本さん)
高等教育の修学支援新制度
文部科学省が指定の大学を対象に授業料・入学金を減免する「授業料減免」と、日本学生支援機構(JASSO)の「給付型奨学金」をあわせて、「高等教育の修学支援新制度」と呼んでいます。
文部科学省の「授業料減免」は、指定の大学を対象に授業料・入学金を減免する制度で、多くの国公立大・私立大が対象となっています。
JASSOの「給付型奨学金」は、返還不要の奨学金を受けられる制度です。
減免額や奨学金の金額は、家庭の世帯年収や自宅・自宅外などによって異なるので、詳しくは文部科学省のサイトでご確認ください。
たとえば国公立大進学の場合、最大で年間の授業料と入学金が全額支給され、世帯年収が低いほど減免・支給額は大きくなります。
ただし、進学後の成績や出席日数によっては支援を打ち切られる可能性がありますし、場合によっては返還が必要になることも。
※参考:学びたい気持ちを応援します 高等教育の修学支援新制度-文部科学省
https://www.mext.go.jp/kyufu/student/koukou.html
矯正医官修学生(矯正医官修学資金貸与制度)
「矯正医官」とは、全国の矯正施設(刑務所や少年刑務所、拘置所など)で被収容者の医療・健康管理を行う医師のこと。
法務省では、矯正医官を目指す医学生を対象に、月額15万円の修学資金貸与を実施しています。
大学卒業後に医師法で規定されている臨床研修を修了後、すぐに矯正医官として3年以上勤務した場合には、修学資金の返還債務の全額(または一部)が免除されます。
3年以内で勤務をやめれば修学資金を返還しなければなりませんが、勤務にあたっては外部医療機関での診療ができ、住居手当など各種手当もあります。
※参考:医学部生の方へー矯正医官修学資金貸与制度について - 矯正医官
https://www.moj.go.jp/KYOUSEI/SAIYO/scholarship/index.html
医学部地域枠入学
「医学部地域枠」は、医師不足などが課題となっている地域で医療に従事することを条件として、その地域の出身者などを対象に設けられた受験・入学制度。
国公立大だけでなく私立大でも、医学部地域枠を設ける大学は数多くみられます。
地域枠で入学すると修学金(地域や大学によって金額は異なる)が貸与され、卒業後に自治体から指定された医療機関で勤務することで、返済免除になります。
ただし、留年などで自己負担が発生する可能性があることや、卒業後に9年ほど同じ医療機関で勤務しなければならないなどの注意点はあります。
※参考:これまでの医学部入学定員増等の取組について-文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2011/01/18/1300372_1.pdf
大学の特待生制度
私立大医学部では、入学試験の成績が優秀な学生に学費の減免などを行う「特待生制度」を設けているケースもみられます。
成績別に2種類の特待生制度を用意している大学も少なくありません。
6年間で最大約1,900万円を免除する大学もあり、特待生に選ばれれば学費の負担はかなり抑えられます。
ただし、選出される特待生の人数は1学年に数名とごく少数。
非常に狭き門だという点は、事前に認識しておく必要があるでしょう。
一部の大学・大学校
その他、一部の大学や大学校でも、学費ゼロ、または低い学費で学べたり、給与や賞与が支給されたりと、学費の負担をかなり軽減できるケースもあります。
ただ、卒業後の進路が限定される場合もあるので、条件をよく確認しましょう。
●自治医科大学
医療に恵まれないへき地などにおける医療確保や、地域住民の福祉の増進を目的に、全国の都道府県が共同で設立した大学。
キャンパスの所在地は栃木県下野市です。
入学金や授業料、実験実習費、施設設備費など2,000万円超の修学資金(6年間の合計)が貸与されます。
この修学資金は、大学卒業後に指定された公立病院などに一定期間勤務すれば返還が免除になります。
途中で勤務をやめた場合は、利息を加えた修学資金を一括返還しなければなりませんが、条件を満たせば実質的に「学費ゼロで医師になれる」ことになります。
※参考:修学資金・奨学資金-自治医科大学
https://www.jichi.ac.jp/exam/medicine/backup/
●産業医科大学
産業医学の振興や産業医養成などを目的に設立された大学。
キャンパスは福岡県北九州市です。
医学部の学生を対象に、公益財団法人産業医学振興財団が修学資金として学生納入金の一部を貸与する制度があります。
貸与額は、学生が納付すべき金額の3分の2程度。
たとえば6年間貸与を受ければ、本来なら3,000万円超かかるところを自費約1,100万円で卒業できます。
卒業後、貸与を受けた期間の1.5倍の年数、産業医や労災病院の医師など指定の職務に就けば、全額が返還免除になります。
ただし、卒業後に産業医などの職務に就かない場合、または所定期間勤務しない場合は、貸与金額を一括返還しなければなりません。
国立大学よりは高額ですが、私立大学と比較すると、かなり低い学費で医師になれます。
※参考:学費・修学資金等-産業医科大学
https://www.uoeh-u.ac.jp/Exam/01.html
●防衛医科大学校
医師である幹部自衛官(医官)の育成などを目的に設立された、防衛省の一組織である大学校。
所在地は埼玉県所沢市です。
学生とはいっても特別国家公務員でもあるため学費を支払う必要はなく、毎月の手当や年2回の賞与も支払われます。
ただし、学生宿舎で規則正しい生活をしながら学ぶことが義務づけられており、自分の都合で授業や訓練を休めません。
また、卒業後9年未満で離職する場合は、卒業までの経費の返還が求められます。
※参考:医学科について-防衛医科大学校
https://www.ndmc.ac.jp/med/about/
奨学金(日本学生支援機構など)
学費を工面するための方法として、奨学金を検討するご家庭は多いでしょう。
実際、多くの大学生が日本学生支援機構(JASSO)による奨学金制度を利用しています。
大きく分けて「給付型(返還しなくてよい)奨学金」と「貸与型(返還する必要がある)奨学金」があります。
貸与型の場合は卒業後にお子さまが返還する必要があるため、「学費を抑える」という観点から考えれば給付型を利用したいところ。
ただし、給付型の場合は学力基準や家計基準が定められているので、お子さまの成績やご家庭の収入状況が条件に当てはまりそうかをまず確認しましょう。
なお、貸与型の場合は「第一種奨学金」(無利子)と「第二種奨学金」(有利子)があり、貸与金額は月2万円から。
「研修医時代は収入が少ない場合が多く、奨学金をたくさん借りると返済は予想以上に大変だとお子さまと一緒に確認しておきましょう」(山本さん)
その他、民間団体や地方公共団体が設置する奨学金制度もあります。
特に医学部志望の場合に注目したいのは、医療法人などで奨学金制度を設けているケースです。
卒業後にその法人が運営する病院で一定期間勤務すれば、返還が免除になるケースも多々あります。
※参考:奨学生募集情報について-国立病院機構
https://nho.hosp.go.jp/career/cnt1-0_000331.html
教育ローン(日本政策金融公庫、銀行)
教育ローンは、文字通り教育費調達のために金融機関から借りるローンです。
貸与型奨学金はお子さまが貸与・返済するものであるのに対して、教育ローンは保護者のかたが借り入れ、返済を行います。
日本政策金融公庫のほか、銀行などの金融機関が教育ローンを設けています。
日本政策金融公庫の教育ローンは固定金利で、借入時の金利が完済まで適用されるので安心感がありますが、世帯収入の条件などが決められています。
借入額の上限は、医学部で6年間学ぶ場合は450万円です。
民間の教育ローンは、日本金融政策公庫と比べて借入額の上限が高く、審査が早いのが特徴。
ただし、担保型か無担保型かによっても変わりますが、金利も高い場合が多く、変動金利型のみのケースが目立ちます。
「商品によっては返済の負担が非常に大きくなるため、学費が調達しやすいとはいっても、借入をするかどうかは慎重に考えたほうがよいでしょう」(山本さん)
まとめ & 実践 TIPS
お子さまを医学部で学ばせることを考えるとき、「学費をどうまかなうか」は多くのご家庭にとって悩みどころではないでしょうか。
しかし、早めに情報収集をスタートし、さまざまな制度を活用することで、負担を抑えたり、費用を準備したりしておくことができるでしょう。
一緒に将来の目標などを話し合いながら、今回の記事で取り上げた情報も参考に、「どうすれば進学を実現できるか」を前向きに検討してみてください。
- 教育費