上手な睡眠で「人間力」もアップ!? 文科省が検討‐渡辺敦司‐

多くの学校では、まだ夏休みが明けたばかりかと思います。お子さんの生活は、普段どおりに戻ったでしょうか? 早寝早起きの規則正しい生活習慣は、十分な睡眠時間を確保するためにも大切です。睡眠時間が減ると、心身にさまざまな影響が及ぶことは言うまでもありません。そんな睡眠の重要性に着目して、文部科学省は有識者による検討委員会を設けるとともに、小・中・高校生の実態調査も計画しています。

検討委の正式名称は「中高生を中心とした子供の生活習慣が心身へ与える影響等に関する検討委員会」。実は少し前にも、よく似た名称の「中高生を中心とした子供の生活習慣づくりに関する検討委員会」がありました。この検討委が2014(平成26)年3月にまとめた報告(審議の整理)では、「早寝早起き朝ごはん」運動が子どもの生活習慣の改善に一定の成果を上げたものの、たとえば中学生の睡眠習慣にはまだ課題があると指摘。中高生に「睡眠に関する教育」をもっと行う必要があるとして、調査研究を提言していました。今回の新しい検討委はそうした提言を受けたもので、実際には「睡眠を中心とした子供の生活習慣づくり」を検討することにしています。

内閣府の2014(平成26)年版「子ども・若者白書」によると、15~19歳の平均睡眠時間は2011(平成23)年で7時間42分。5年前(2006<平成18>年)は7時間39分でしたから、3分増えたとはいえ、ほぼ横ばいの状況だと言ってよいでしょう。近年ではスマートフォン(スマホ)の普及もあり、中高生の睡眠時間を短くさせる「誘惑」にはこと欠きません。しかも本来必要な標準睡眠時間は、13歳で9時間15分、15歳で8時間45分、17歳で8時間15分という研究成果もあります。全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果分析でも、毎日同じくらいの時間に寝起きしている小学6年生ほど平均正答率が高い傾向が明らかになっています。やはり規則正しい生活習慣と十分な睡眠は、子どもにとって重要です。
厚生労働省は2014(平成26)年3月にまとめた「健康づくりのための睡眠指針2014」の中で「睡眠12箇条」の7番目に「若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ」を挙げています。しかも、解説では「休日の睡眠スケジュールの遅れは、夏休みなどの長期休暇後に大きくなります」と注意を促しています。読者の皆さんのお子さんは、いかがでしょう?

同指針でも指摘しているように、規則正しい就寝・起床は、体内時計のリセットのために重要です。体内時計の周期は24時間よりも少し長いため、起床時間を遅らせると体内時計もズレてしまうと言います。検討委では、委員の柴田重信・早稲田大学教授が体内時計のメカニズムを解説しながら、就寝前にはケータイなどのバックライトを浴びないこと、夜遅くに食べなければいけない時は「分食」にしたほうが体内時計が乱れにくいことなどを指摘。富山大学の神川康子教授も家庭向けの市民講座で、各種の実証データを挙げながら「眠って、賢く、優しく、美しく、人間力UP!」と銘打って啓発活動を行っていることを紹介していました。子どもだけでなく保護者にとっても、無視できない話ですね。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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