所得に応じて奨学金返還 文科省が検討開始‐渡辺敦司‐

「マイナンバー」(社会保障・税番号)が、ご家庭にも通知されたことと思います。マイナンバー制度をめぐっては、文部科学省がこれを利用して、日本学生支援機構の奨学金(大学・短大・専門学校生などが対象)を返しやすくする、より柔軟な「所得連動返還型」の導入を目指していることは、以前の記事で紹介しました。マイナンバー制度の施行を受けて、その本格的な検討がこのほど、新たに設置した有識者会議で始まりました。2017(平成29)年度入学者(現在の高校2年生)からの実施を目指しています。

所得に応じて奨学金返還 文科省が検討開始‐渡辺敦司‐


改めて現行制度を振り返ると、普通は卒業してすぐ毎月、一定額の返還が始まります。たとえば、自宅から私立大学に通う際に無利子奨学金を借りるというモデルケースの場合、4年間貸与総額は259万2,000円(月額5万4,000円×12か月×4年間)で、通常はこれを毎月1万4,400円(年間17万2,800円)、15年間で返還することになります。一方、卒業後すぐ正社員に就けない人も少なくない現状を踏まえ、年収300万円になるまでは返還を猶予する「所得連動返還型無利子奨学金制度」が2012(平成24)年度から導入されています。
しかし、現行制度は300万円を1円でも超えると規定額の返還が始まるため、依然として負担は大きいのが現状です。さらに、返還猶予といっても返す時期が先送りになるだけで、かえって返還期間が長期化してしまうなどのデメリットもあります。逆に、卒業後すぐの返還は大変でも、結婚して子どもが生まれると家計のやりくりが大変になるため、むしろ独身のうちに多く払っておきたいと考える人もいるでしょう。

導入検討の背景には、国側の事情もあります。高等教育機関を卒業した30・50代のうち、年収300万円未満の人が約3割を占めているからです。現行制度では300万円以下の間は無期限で返還猶予となるため、年収が上がらなければ「貸し倒れ」になります。同機構の奨学金は、返還金を次の奨学金の原資とする「リレー方式」を採っていますが、貸し倒れが増える事態になれば、国費つまり税金で補充しなければならなくなり、高等教育機関に進学しない人まで負担をすることになり不公平だ……というわけです。そのため、返せる人には少しずつでも返還してもらいたい考えです。

一方、いつまでも満額の返還を迫るのは、なかなか収入が増えない続く当人にはかなりの負担ですし、機構側にも管理コストが増加するというデメリットがあります。そこで諸外国のように、30年などと期限を限って返還免除とすることなども検討するとしています。
また、結婚した場合は夫婦の年収を基準とするのか、あくまで借りた本人の収入で考えるかなど、さまざまな検討課題があります。有識者会議では、来年3月に最終とりまとめを行い、対象者が高校3年生になった時の予約採用には新制度を提示したい考えです。

奨学金は、借りた人はもとより、高等教育を受ける人が増えるという、社会にとってのメリットもあります。教育費は高騰する一方ですから、誰がどう負担するのが社会にとってより公正なのかという観点も忘れずに、新制度を検討してほしいものです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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