意味を理解し世界を広げる! 成り立ちから覚える漢字の授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。



今回、紹介するのは、東京都で小学1年生から6年生の漢字学習を担当しているAG先生の授業です。授業は、ただ読み書きをするためだけに漢字を覚えるのではなく、意味を理解することで、自分の世界を広げることをねらっています。
そのために、先生の手作りのユニークな教材がたくさん用意されています。

まず、AG先生は、「中国の漢字の数は幾つあると思う?」と投げかけます。
答えは、4万7,000個。そこで、今度は、「4万7,000個ってイメージできる?」と質問します。すると、子どもたちからは、「わからない!」「スゴイ多い!」などの反応が返ってきます。
ここで最初の教材が登場します。4万7,000個の漢字が書かれている表です。その数を目の前に、子どもたちはぼうぜんとします。すかさずAG先生は、「知っている漢字ある?」と質問します。子どもたちが小学5年生までに習った漢字は、800字ですから、知らない漢字ばかりです。そこで今度は、「漢字って、101を覚えれば、どんな漢字も意味がわかるようになるんだよね」とつぶやくのです。当然、子どもたちは、その101の漢字を知りたくなります。
そこで、第2の教材「101の漢字が入った漢字物語」を取り出します。

二本足 ち、 では 色々 る。
から には、目が つ。 つで、口一 つ。 にかみの ふさふさ……」

とさらに続く物語で、漢字の部分が□(空欄)の穴埋め問題になっています。

子どもたちは、まず、目をつむって物語を聞きながら、漢字を思い浮かべます。
ちなみに、この101の漢字は、5年生までに習う漢字ばかりです。
この穴埋め問題に挑戦したあと、先生は、クイズと絵でまとめた第3の教材で、101の漢字一つひとつの意味を振り返っていきます。たとえば……「月」。まず昔の漢字を見せ、今の漢字を当てさせたあと、月には、お月さまの「つき」、体の一部を表すにくづきの「つき」、そして、舟の形を表す「つき」があることを絵で伝えます。
そして、101の漢字がわかると、どんないいことがあるのかを実感させるために、中学校で習う漢字に挑戦します。この時、第4の教材が登場します。2枚の木札で、表には漢字が1文字ずつ書かれていて、裏返すと合せた漢字になるものです。たとえば、「手」と「包」が書かれた漢字の札を出し、合体したら何になる?と投げかけます。ヒントは、「手」と「包む」というジェスチャーです。子どもたちからは、「抱きしめる」という声が上がります。札を裏返して合わせると「抱」となります。

ちなみに、教材だけでなく、先生は、子どもたちが休み時間に漢字に親しめるようにと、カードゲームも用意しました。2枚のカードを組ませ、1つの字になったらOKというもので、ババヌキと同じルールで、ババがなく、早く手元のカードがなくなったら勝ち。ただ、読める漢字が完成したらOKというルールがあります。
 
さまざまな教材をとおして、漢字の世界に浸ったところで、漢字を使った推理にも挑戦します。取材した授業のテーマは、「祭」でした。子どもたちは、「祭」を3つに分解して、意味を推理します。 

まず、「月」「又」「示」それぞれの意味を考えます。

 「又」……手の意味
 「示」……神社などの祭壇を表している

問題になったのが「月」です。

絵とクイズでまとめた教材で例に挙げたように、「月」には、お月さま、にくづき、舟の3つの意味があります。では、今回の場合は、いったいどれか?
祭りは月の出る時にやるものなのか? すると、たまたまクラスにいた中国出身の子が自分の経験を話し始めました。「中国では、祭りの時に肉を捧げていた」。
ここまでで、わかったことは……

 「月」……肉の意味
 「又」……手の意味
 「示」……神社などの祭壇を表している

この3つの情報をもとに、子どもたちは推理します。
「神さまが肉を手でつかんで食べる」「神社に肉を持って行く」などの推理が出ました。そして、祭りとは「豊作を願い、肉を手で捧げるもの」に行き着きました。

子どもたちは、この授業をとおして、漢字をとても身近な存在に感じ、言葉の奥深さを感じたと思います。


プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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