不登校の原因、「いじめ」が小学生で低学年化する理由 【不登校との付き合い方(25)】

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不登校の大きな要因となっている「いじめ」。今、いじめが急激に低年齢化しているというデータがあります。中学1年生がいじめのピークだったのは10年前のこと、今は小学校1~2年生ごろに非常に多く起こっているというのです。これはどうしてなのでしょうか。「不登校新聞」編集長の石井志昂さんにお話を伺いました。

この記事のポイント

「いじめ0件」では通らなくなった事情。文科省の定義が変わった

いじめが低年齢化している、というと、子どもたちが変わってきたと考えられるかもしれませんが、そうではありません。周りの状況が変化してきているということについてお話したいと思います。

いじめの報告件数が急激に増加した背景には、文部科学省の姿勢の変化があります。この5年ほどの間に、いじめも暴力行為も、学校で起こったことを隠さず報告するように、という方向性に変わりました。

ある小学校の教員によれば、以前はいじめを教育委員会にはわざわざ報告してはいなかったと言います。生徒同士のもめごとや、本人が「いじめだ」と言っていることについて、教育委員会に報告したとしても、ただ指導が入るというだけで、実際に子どもを助けることにはならない、だから、わざわざ報告しなかった、と。学校内でだれもが知っているというくらい「大ごとになったいじめ」だけが報告されるという具合だったのです。

ほんとうは問題を抱えているのに「いじめ0件」「いじめは、ない」としている学校が多かったのはこういう事情でした。でも、どこでもいじめは起きていたはずなのに、本来おかしな話だったのです。

文部科学省からのお達しもあって、学校側がほんとうの実態を報告するようになったのは2016年ごろからでしょう。そのきっかけについて、私は、2015年に起きた岩手県矢巾町いじめ自殺事件があったからだと考えています。中学2年生の男子生徒が、いじめを苦に列車に飛び込んで自殺したという事件です。その学校では「いじめ0件」という報告をしていました。実際には、その生徒は何度も先生に「いじめで苦しい」と訴えていたのです。このときに、文部科学省が学校の抱えている問題に踏み込んで調査したことをきっかけに、変わっていったのだと考えています。

それまで、いじめの報告を挙げてこなかった学校側も、いじめを見て見ぬふりをしていたわけではないでしょう。あまりに生徒数が多いと、学校内の問題はたくさんあるため、先生も「これはいじめではない」と思いたがっていたのかもしれない、と憶測します。

「コミュニケーション操作系」という高度ないじめ

ただ、最近は子どもが「いじめだ」と訴えても、それを先生に認めてもらえないというケースが起こっています。「不登校新聞」の取材でもそうした話をよく聞きます。先生から見ると、そんなに悪意があってしている行動に見えない「わかりづらいいじめ」だからです。

日本のいじめの特徴として、いじめが起きている場所は教室内が多く、約7割という点があります。海外では、行き帰りのスクールバス、通学路が多く、つまり大人の目が届かないところでいじめが起こっているということです。先生に見つからないように校舎の外でいじめが起こるほうが普通のように思いますが、日本の場合は「コミュニケーション操作系いじめ」と呼ばれる、悪意を持った陰口や、集団で無視したりする、「わかりづらいいじめ」が多いのです。

目の前にいる大人が気づかないくらい、陰湿で、遠隔的に、本人を傷つけるいじめが多いということです。

たとえば小学校一年生の例ですが、「君は赤ちゃんみたいだね」と言われ続ける、というケース。あからさまに本人の姿や行動を否定するいじめではなく、でも確実にバカにしているといった、いじめというより「いじわる」といった感じです。

ほかにも、学級委員長や発表会の主人公など、大変な役割を押し付けるという形をとるいじめもあります。「○○ちゃんがいいと思う」と推薦の声を上げられ、本人はもじもじしているうちに決まってしまう。これも、悪意があるかどうかは子どもたちの間でしかわからないこと。もしそこで、「○○ちゃんにその役は難しいと思う」と大人が言えば「なんで? そんなことを言ったら○○ちゃんがかわいそう」といった反論となって返ってきます。大人も太刀打ちできないようなことが、小学校低学年でも起きているようなのです。

こうした陰湿な「コミュニケーション操作系いじめ」と呼ばれる「わかりづらいいじめ」は、中学生くらいになってあらわれると思われていましたが、形は未熟だけれど、小学校低学年の中にも起きているのです。

巧妙で大人がつっこみにくい、ある意味、非常にコミュニケーション力の高いいじめです。しかも組織だって行われるのです。自分が小学生のころには、ちょっと考えられなかったことです。

これには男女差もあります。平均して男子よりも精神年齢が高い女子は、就学前からすでに特定の子を仲間外れにすることがあります。「みんな、あっち行こう」と言って、グループで、特定の子を置き去りにしたりします。男子は群れてじゃれ合っているだけという一方で、女子の間には「いじわる」が始まっている。これが小学校になるとさらに広がって「わかりづらいいじめ」に発展していくという具合です。

低年齢化の理由「子どものストレス度が上がっている」

では、なぜ「わかりづらいいじめ」が起こるのでしょう。これは私の持論ですが、子どもたちが「わかりづらい能力」や「わかりづらい人間関係」を求められすぎているせいではないでしょうか。

小学校に上がると、保育園・幼稚園時代に比べて子どものストレス度が高まります。学校生活ルールに合わせなくてはならなくなり、集団行動を求められるようになります。さらに、今の小学校では班行動においてのルール作りを子どもが自発的にするようになっています。「みんな積極的になりましょう」、「みんなで助け合いましょう」といった目標を、先生主導ではなく、子どもがマイルールとしてつくり、「私たちの班作り」をしています。ここには「非認知能力」と呼ばれる、目標に向けて頑張る・他の人に配慮する・やり抜こうとする気持ちといった、数値化や言語化がしづらい能力を育てようという背景があります。

非認知能力が必要とされる行動のわかりやすい例としては、チャイムが鳴る前に席についているようにする「チャイ着運動」があります。以前は、合図としてのチャイムが鳴ったら行動するというルールでしたが、今はチャイムが鳴る前に支度をすませて着席しておく、というのです。「チャイ着運動」のように、雰囲気や全体の流れを理解して行動するという、いわば「空気を読む行動」など目に見えない能力を求められることが増えています。

こうした目に見えないコミュニケーション力や決まり事を守る力が伸びる一方で、子どもは常に周りに気を使いストレスも高くなります。コミュニケーション力がいじわるな方向に運用され、非認知能力を子どもたちが身につけていった結果、こうした「わかりづらいいじめ」が起きているのではないでしょうか。

実は、今の小学校低学年では、暴れてしまう子どもが、保護者や先生たちを悩ませています。ストレスをため込んでいてすぐ手が出て乱暴してしまう、かといって発達障害でもない、そういう子どもがクラスに1~2人くらいの割合でいるのです。先生は教室にいるそういう爆発型の子どもに目も手も奪われていて、その影で起こっている「わかりづらいいじめ」にまで目が届かないという現実もありそうです。

いじめが低年齢化している理由は、子どもの本質が変わったからではないでしょう。これは、ストレスが強い教育をした結果なのだと、私は考えています。

まとめ & 実践 TIPS

以前は小学校5~6年生で現れていたような、陰湿な「コミュニケーション操作系いじめ」が小学校1~2年生に低年齢化しています。それは子どもが変わったからではなく、子どもの非認知能力を高めようとするストレスが多い教育環境によるものではないかと石井さんは考えています。次回は、そうした子どもたちに何を伝えたらいいのかについて、掘り下げます。

プロフィール


石井志昂

『不登校新聞』編集長。1982年生まれ。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。17歳から不登校新聞社の子ども若者編集部として活動。不登校新聞のスタッフとして創刊号からかかわり、2006年に編集長に就任。現在までに不登校や引きこもりの当事者、親、識者など、400名以上の取材を行っている。

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