「根拠」のある回答を目標に、読む力をつける国語の授業[こんな先生に教えてほしい]
毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。
今回紹介するのは、千葉県で長年教師を務め、退職後も全国各地の小学校から招かれ、飛び入り授業をしているAD先生の授業です。
小学4年生の国語の授業。題材は、『ごんぎつね』です。覚えている人も多い物語だと思いますが、取材時、小学4年生のすべての国語の教科書に掲載されていた物語です。
まず、物語の概略を……。
主人公はひとりぼっちの小狐ごんです。いたずらばかりしているごん。ある時、兵十という若者が苦労してとっていたウナギを逃がすといういたずらをします。しかし、兵十の母親の死を知り母親のためにウナギをとっていたのではと考え、つぐないとして、魚やクリを兵十に届けるようになります。しかし、クリを届けに来たごんを兵十は、またいたずらをしに来たと思い、鉄砲で撃ってしまいます。
AD先生が目指すのは、「ごんをどう思うか?」を考えることで読む力を育てることです。
この日、皆で読んだのは、主人公ごんの紹介が書かれた冒頭の部分です。
「ごんは、ひとりぼっちの小ぎつねで、(中略)辺りの村へ出てきて、いたずらばかりしました。畑へ入っていもをほり散らしたり、菜種がらのほしてあるのへ火をつけたり、百しょう家のうら手につるしてあるとんがらしをむしり取っていったり、いろんなことをしました。」
ここまでを読んで、先生は「ごんをどう思うか?」とたずねました。
文中の文言を根拠に正しいイメージをすることが、今回の授業のポイントです。
まず、先生は、「かわいらしい、ひどいなど、ごんの印象をズバリひと言で書きましょう」と伝えます。短い言葉にするのは、考えを整理することに役立ちます。
「ひとりでさびしい」「いたずらばかりして、イヤ」などいろいろな意見が出ました。そこで、先生は、良い印象を持った人は「○」、ひどいやつだと思った人は「×」をつけるよう指示を出します。「○」か「×」か、ここで大事なのは、決めた理由です。なぜ、そう思ったのか周りに納得してもらえる理由を持っているかどうかが大事です。しかも、その理由は、物語の中から探し出さなければなりません。
これは、大人になった時、役に立つスキルのひとつです。
さらに、先生は、物語に出てくる網の一種「はりきり」は、底があるかどうか?という質問を出します。同じように、文章から皆が納得できる理由を探すのです。
皆が、注目したのは、「ふくろのようになったところを、水の中から持ち上げました。」という一文です。ここから、「底がある」という答えを導き出した子がほとんどでした。
でも、答えは「底がない」なのです。正解は、35人中1人だけでした。
ここで、授業は終わり。
すると、子どもたちは、先生を取り囲み「何で?」「何で?」の大合唱です。
その真剣な顔を見た時、「この授業は、子どもたちにとって忘れられない授業になったな」と感じました。
しばらくすると……。
物語を読み返していた子どもが叫びました。 「『ふくろの口をしばって』って書いてある!」
教室からは、どよめきが起きました。