新しい学力、正規雇用の決め手は「自律的力」と「人間関係力」-斎藤剛史-

これからの社会では、単なる知識量の多さによる学力ではなく、習得した知識を活用する力やコミュニケーション能力といった新たな「学力」が求められていることは、既に多くの人が感じていることでしょう。しかし、本当に新しい学力は、社会に出て役立つのでしょうか。国立教育政策研究所の調査(外部のPDFにリンク)から、正規雇用者は非正規雇用者や無職者に比べて、「自律的力」や「人間関係力」といった力が高いことがわかりました。

調査は25~44歳の男女を対象にインターネットをとおして実施し、そのうち1,000人の回答を集計しました。まず、就労形態別に中学校時代に成績上位グループに属していた者の割合を見ると、男性では正規雇用者で70.0%、非正規雇用者で48.0%、求職者で41.0%など、女性では正規雇用者で66.0%、非正規雇用者で60.0%、専業主婦で62.0%、求職者で36.0%などとなっており、同研究所は、少なくとも男性については中学校時代の成績という「知的資本」が正規・非正規雇用と密接に関係しているとしています。
また、生徒会役員、サークルの部長、宿泊を伴うキャンプ、一人暮らしなどの「経験資本」、友人の数など「社会関係資本」が多いほど男女共に正規雇用の割合が高いという結果が出ました。

それよりも注目されるのは、当コーナーでも以前にお伝えした新しい学力観の一つである「キー・コンピテンシー」(主要能力=自律的に行動できる「自律的力」、データや知識などを使いこなす「道具活用力」、他者との関係を築ける「人間関係力」の3つの力)と就労形態との関係です。調査対象者に質問してそれぞれのコンピテンシーの力を上・中・下の3群に分け、現在の就労形態と比較しました。就労形態ごとに上位群の者が占める割合を見ると、自律的力については正規雇用者が31.5%、非正規雇用者が25.5%、無業者が20.0%、道具活用力は各27.0%、22.5%、24.0%、人間関係力は各45.0%、30.5%、21.0%でした。同研究所は「この3つのコンピテンシーのいずれにおいても、就労形態との関連がみられる」と結論付けています。
一方、世帯年収とコンピテンシーの関係では、人間関係力の高い人ほど年収が高いものの、自律的力や道具活用力との関係はあまり見られませんでした。これに対して、生活の満足度では、自律的力と人間関係力が高いほど、現在の生活に対する満足度が高いという結果が出ました。どうやらコンピテンシーは、経済的な利益とは必ずしも結びつかないものの、社会を生きていくうえでの生活の満足度を上げることにつながっているようです。

現在の学習指導要領は、基礎・基本の学力の向上とともに、知識を活用して自ら問題を発見し解決する力、コミュニケーション能力など人間関係形成に関わる力など「生きる力」の育成を重視しています。これは「キー・コンピテンシー」とも重なるものです。同研究所の調査結果は、キャリア教育などをとおして自律的力や人間関係力などを小さなころから育成していくことの重要性を示しているとも言えるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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