人間力で学力を向上できる[中学受験]

「人間力」という言葉は、教育業界のほかにも、多くの業界で使われるが、定義が異なるばかりでなく、時代の流れとともに内容の変化が激しい。たとえば、文部科学省の定義では、学力を含む人間性や社会で活躍するための能力も含むが、経済産業省では、行動力・思考力・協調性の社会人基礎力を「人間力」と定義している。また、ある企業では、社会人基礎力だけではなく、人間性を「人間力」の定義として、「人間力」のある人材を採用の基準としている。ここでは「社会人基礎力と人間性」を人間力と定義し、学力との関係を述べる。

中学受験をする小学生と大学受験をする高校生でも、学力を付けるために必要な人間力は同じではないか。小学生でも高校生でも「勉強が大好き」という生徒は少なく、大多数は、嫌いな勉強であっても志望校に合格するために努力しているはずだ。努力は、向上心・探究心・行動力・思考力などの人間力がなければ身に付かない。そもそも、学力は生徒の持って生まれた才能だけではなく、大部分は努力によって身に付くものだ。人間力を向上させることで、努力できるように教育すれば、学力は無理なく向上できるはずだ。

神奈川県のある私立女子中高一貫校では、人間力で学力を向上させることに取り組んでいる。まずは、人間力を向上させる指導を行う。具体的には、学校行事を使って人間力の指導を行い、年に2回、生徒自身による自己評価を行って自覚を促す。学校では、大学受験を生徒にとっては最後の締めくくりとなる行事と考え、人間力で学力を向上させて志望大学に合格させる教育を行っている。下に掲げた表は、中学1年生の「人間力に関する自己評価アンケート結果」で、読者のお子さまと年齢的に近く、分析結果はお子さまの受験指導にも参考になると思う。

ここでは、人間力を生活面、人間性、能力面で構成されると定義している。生活面は、マナーの要素と自己管理の要素が多い。自己評価は、下記のような5段階評価の基準で生徒自身の自己評価によって行われる。アンケートを自己評価で行うと子どもの主観となるため、正確な評価とはいえないが、評価する項目を相対的に比較することで優劣はわかる。

「1. 生徒の自己評価」の表において、生徒の自己評価の低い項目は、「2. 生徒が身につけたいと思う人間力」の表では、生徒が身に付けたいと思う人間力で、割合が高い項目と一致することがわかる。生活面では「(5)言葉遣い」、人間性では「(3)自立心」、能力面では「(4)問題解決力」が当てはまる。逆に、自己評価が比較的高いので、それほど身に付けなくてもよいと考えている項目は、人間性では「(4)身だしなみ」、人間性では「(5)思いやり」、能力面では「(1)主体性」「(6)柔軟性」がある。

ここで興味深いのは、自己評価が比較的高いのに、身に付けたいと考えている生活面の「(2)健康管理」と、逆に自己評価が比較的低いのに、身に付けなくてもよいと考えている能力面の「(2)実行力」だ。健康管理は、それだけ重要なことという認識があるということだろう。
しかし、わかりにくいのが、実行力がないことを認めながらも、実行力を身に付けようと思わないのはなぜかということである。実行力を重視していないということになるが、実行力は何かを成し遂げるために重要な要素だ。

まだ経験値が少ない中学1年生には、実行力の重要性が理解できないのだろう。この学校では、実行力がある人が最終的には、目標を達成できることを行事の中で認識させることから始め、実行力を身に付けたいと考えさせ、成功体験を積ませて、最終的には実行力を身に付けさせる。人間力の成功体験がある生徒は、努力を惜しまなくなるようだ。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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