老朽校舎の増加で必要な学校施設の安全確保‐斎藤剛史‐

現在の公立小中学校の施設の約7割は築25年以上を経過しており、老朽化対策が課題となっています。ところが、建築基準法により施設の点検義務がある市町村の小中学校の1割以上で、建物の劣化などの点検がされていないことが、会計検査院の調査でわかりました。また点検を実施した小中学校でも、8割以上が危険箇所を補修していません。なぜ学校の老朽化対策は進まないのでしょうか。

老朽校舎の増加で必要な学校施設の安全確保‐斎藤剛史‐


建築基準法は、規模の大きな校舎などがある市町村に対して、専門家による学校施設の点検を3年に1回以上するよう義務付けています。しかし、会計検査院が20府県616市町村の公立小中学校8,408校を調べたところ、点検義務がある336市町村5,267校のうち、45市町村の694校(13.1%)で適切な点検が実施されていませんでした。
それだけではありません。点検を実施した300市町村(一部学校のみ点検した自治体も含む)の2,438校で、外壁や天井などの劣化や損傷が発見されましたが、そのうち2,052校(84.2%)では、補修などの措置をしていません。これでは、何のために点検したのかわかりません。一方、法的点検義務のない280市町村3,112校のうち点検を実施したのは約4割に過ぎず、172市町村の1,834校(58.9%)が専門家による点検をまったく受けていない状態です。

文部科学省は公立学校の老朽化対策を進めていますが、現実には、点検義務がある公立小中学校の約1割が点検をせず、危険箇所が見つかった学校でも約8割が補修されないままのほか、法的点検義務のない小中学校の約6割が専門家による老朽化などの危険性の把握がされていない……ということになります。このため会計検査院は、文科省に対して、学校施設の維持管理を適切に行うよう市町村教育委員会に働きかけることを要請しました。
対策が遅れている原因として、会計検査院は、市町村の財政状況の悪化などを挙げています。学校施設については、東日本大震災を契機に、耐震化工事が文科省の強力な指導で進められましたが、市町村ではそのために予算や人手が取られ、校舎などの老朽化対策にまでは手が回らないと、多くの関係者が指摘しています。

もう一つ、あまり表に出ない原因があると見る向きもあります。それは、少子化による小中学校の統廃合問題です。多くの市町村では学校統廃合が課題となっており、廃校候補に挙げられている学校も少なくありません。会計検査院の調査対象となったある自治体の担当者は「統廃合予定の学校に危険箇所が見つかっても、そのために予算を使いたくない」と本音を漏らします。いずれにしろ施策として学校の老朽化対策の優先順位が低い傾向にあるのは間違いないようです。

事態は、子どもの安全に関わることです。「大人の事情」で安全対策が後回しにされるようなことは、決してあってはなりません。地方自治体は、子どもたちの安全・安心のために最大限の努力をすべきであり、保護者なども関心を持つ必要があるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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