なぜ、朝起きられない? 身近な病気、起立性調節障害【後編】

自律神経系のアンバランスによって、しばしば思春期に発症する「起立性調節障害」。 前回に続き、起立性調節障害の治療と生活面・精神面での適切なサポートについて、森下克也先生に伺います。



なぜ、朝起きられない? 身近な病気、起立性調節障害【後編】


「動揺しない」が第一歩

子どもが朝起きられず、学校も休みがちになれば、心配は当然です。しかし、まずは保護者が「動揺しない」ことが大切です。

起立性調節障害の子どもは、仮病を使うつもりなどなく、ただひたすら体が動かないだけです。保護者が「心が弱い」「怠け病よ」などと感情的な言葉をぶつけた場合、子どもは自分を責め、そのストレスがさらに症状を悪化させることがあります。自律神経は心とつながっているためです。独立心と依頼心の入り混じった、思春期特有の気持ちのブレも、この悪循環に拍車をかけます。

ですから、保護者は決して動揺せず、思春期にはよくあることと冷静にとらえて、すみやかに小児科を受診してください。



薬による治療は「入口」ととらえる

起立性調節障害と診断された場合、まず血圧を上げる薬(昇圧剤)が処方されるケースがほとんどです。これは、脳貧血などの症状を緩和するためで、治療の第一歩と言えます。しかし、病気の本質は自律神経の機能不全なので、昇圧剤の服用だけでは、なかなか根本的な解決に至らないのが現状です。全身のバランスを整える漢方薬の併用も効果的ですが、それでもめざましい改善が見られない例もあります。
自律神経の働きを改善するには、薬物治療だけでなく、生活のリズムを整え、精神的な自立を促すことが必要です。



生活面でのサポート‹生活リズムを整える›

◆起床・就寝の時間を一定に
起床・食事・入浴・就寝の時間が一定になるよう、生活リズムを整えましょう。昼夜逆転になっている場合は、1~2週間ごとに15分~30分ずつ、起きる時間を前倒しにしていきます。また、一度起きたらまたベッドに横にならないこと。日中も布団に潜っていると、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかず、倦怠(けんたい)感が取れなくなります。二度寝を防ぐため、自分で布団を片づける習慣をつけるのも効果的です。

◆体を冷やさない食事を
自律神経がうまく働かないと、末端の血流が悪くなり、体が冷えがちに。根菜類・豆類など、体を温める食品を積極的に摂りましょう。生野菜やジュースより、温野菜がおすすめです。

◆こまめに有酸素運動を
筋力を衰えさせないことが重要です。特に脚の筋肉には、下半身にめぐった血液を心臓に向かって押し戻すポンプ作用があるため、脚の筋肉が衰えると上半身に血液が十分送られず、脳貧血などの症状が悪化してしまいます。ジョギング・ウオーキング・ストレッチなどの有酸素運動を、一日10~20分週2回以上、マイペースで続けることが大切です。



精神面のサポート‹自立を促す›

起立性調節障害の子どもに話を聞くと、「学校に行きたくない」と言う子はまずいません。「行きたいけど行けない」「体調がよくなったら行く」と言うのですが、その裏にはしばしば「行きたくない」気持ちが潜んでいます。学校のある日の朝に症状がひどくなるようなら、本人が何かストレスを感じていないか気にかけ、よく話を聞いたうえで、どうすればよいか一緒に考えてあげてください。本人が自分のストレスや悩みに気付き、向き合うことが症状の改善につながります。

「起きなさい!」「怠け者!」などと叱り飛ばしていると、症状の悪化を招くばかりか、子どもの自立心の芽を摘むことになります。一方、「調子が悪いなら寝ていていいよ」と放置していると、子どもは「病気だから学校に行かなくていいんだ」と思い、無意識のうちに病気を利用するようになります。すると、病気が治りにくくなるばかりか、目の前の課題を乗り越える力が育たなくなります。一番の問題は、病気を理由に「逃げ癖」がついてしまうことなのです。



◆病気からの「卒業」を目指して
起立性調節障害をもつ子どもたちの多くは、「このままではいけない」と思いつつ、悶々(もんもん)としながら日々を過ごしています。当面の生活に問題がないうちはなかなか治りませんが、受験や、留年や退学といった事態に直面して初めて、動き出すきっかけをつかめる子が多いようです。具体的な目標ができたり、自分の在り方に自信を持てたりすると、表情もはつらつとしてきて「もう大丈夫」と思えますね。

思春期の子どもは、自立心が育ちきっていない「未熟さ」ゆえに、心身に現れるさまざまな症状に負けてしまいがちです。自立心の成長には時間がかかります。「今は仕方がない。でも、いつかは自分で動き出さなければいけないときが来るんだよ」などと声をかけて、本人が自立心を育て、この先もさまざまな課題と向き合っていけるよう、子どもを信じ、長い目で見守ってあげてください。


プロフィール


森下克也

もりしたクリニック院長。浜松医科大学心療内科にて漢方と心理療法の研さんを積む。浜松赤十字病院、法務省矯正局、豊橋光生会病院を経て現職。著書『うちの子が「朝、起きられない」にはワケがある 親子で治す起立性調節障害』(メディカルトリビューン)など。

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