高校の授業が≪理科離れ≫招く? 少ない実験・観察

子どもたちの理科離れが問題になっており、小・中学校の理科教育の在り方に課題があることは、以前にもこのコーナーでお伝えしました。しかし、高校の授業にも大きな問題があることが、独立行政法人科学技術振興機構と国立教育政策研究所の共同調査でわかりました。大学入試を重視するあまり、理科の授業では実験や観察などがほとんど行われていないというのです。

共同調査は、高校の普通科と理数科に在籍する理科教員を対象にしたものですが、ここでは、普通科の教員に関する内容を紹介しましょう。まず、「理科の授業に日頃から力を入れて取り組んでいるか」という質問に対して、「そう思う」と回答した高校の教員は約7割でした。これは、中学校の理科教員(約5割)を上回る数値です。
同様に、授業で「最新の科学技術をよく話題に取り上げているか」「科学が日常生活に密接に関わっていることをよく解説しているか」などの項目でも、「そう思う」と答えた高校教員は、小・中学校の教員に比べて高い割合を示しています。こうして見ると、高校の理科教員は、学問的な専門性が高いこともあって、理科教育に対する意欲は高い、と言えるでしょう。

しかし、理科に対する高校教員の熱意が、十分に授業に反映されているかというと、そうとも言い切れないようです。「実験の手順を生徒自身によく考えさせているか」という質問で、「そう思う」「ややそう思う」を合わせた回答の割合は、小・中学校が5~6割だったのに対して、高校は約3割。「生徒に自分の考えを発表する機会をよく与えているか」でも、小・中学校の6~8割に対して、高校は3割でした。
これは、高校の理科の授業で、実験や観察の時間が極端に少ないことが原因のようです。理科の授業で実験や観察を「週1回以上」行っているというのは、小学校が63.3%、中学校が64.0%だったのに対して、高校は2.9%に過ぎません。また、学習指導要領上は理科で必ず扱うことになっている「探究活動」や「課題研究」なども、高校の約7割が「年間3時間以下」となっています。子どもは実験や観察をとおして理科の面白さに気付いていくものですが、理科の授業を「生徒の60%以上が好きだと感じている」と回答した教員は、小学校が63.3%、中学校が47.5%だったのに対して、高校は8.7%だけでした。

実験や観察などの授業が少ない理由を聞いたところ、「大学入試への対応のための指導に時間を取られる」と「授業時間の不足」が、大きな割合を占めました。理科の指導の中で力を入れている項目では、大学入試への対応を重視する割合が高くなっています。
結果として、大学受験への対応、授業時間数の不足などで、高校の理科は「座学」が主体となり、子どもたちの理科離れに拍車を掛けている、と言えそうです。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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