子どもがネットやゲームをやりすぎる。保護者が出来る依存の予防や対策のポイント

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子どものインターネットの利用はますます低年齢化し、さらにコロナ禍により、インターネットやオンラインゲームの利用時間も増えています。ネット依存、ゲーム依存という言葉を見聞きして、不安に思っている保護者のかたも多いのではないでしょうか。
そこでインターネット依存の専門診療を行っている久里浜医療センターの松﨑尊信先生に、子どものネット利用の現状とゲーム依存、親が気を付けるポイントについてお話を伺いました。

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この記事のポイント

どうしてゲーム依存になる?

ネット・ゲームにはまる理由

人間の行動には、ある法則があります。「オペラント条件付け」といい、報酬(ごほうび)がもらえるとその行動を繰り返したくなり、ペナルティがあるとその行動をしなくなるよう学習します。なぜネットやゲームにはまるかというと、まずそれ自体が楽しい。報酬ですね。一方、私たちは現実世界で、さまざまなストレスにさらされています。
子どもであっても、友達関係や家族、勉強や進路など、思いどおりにならず、わずらわしいことも多くあるでしょう。
それに対して、ゲームの世界では上手だとほめられ、話の合う仲間がいる、とても居心地のいい空間です。このようにゲームが報酬、現実がペナルティとなると、ますますゲームの世界にはまってしまうでしょう。

最近のゲームは「始めやすく」「やめにくい」

昔はゲームといえばゲーム専用機でするものでしたが、現代は同じタイトルのゲームがスマホやゲーム機、パソコンやタブレットなど、複数の機器でできるようになっています。無料でできるものも多く、気軽に始めやすいといえるでしょう。
また、最近はシューティングゲームやバトルロイヤル系のゲーム(生き残りを目指すゲーム)が人気で、一定の時間がかかり、終わりがないのが特徴です。さらに何人かのチームで行うものは、責任感から自分だけ抜けにくい状況にもなっています。

また、オンラインゲームの特徴として、まったく知らない人と一緒にプレイできることがあります。子どもが見知らぬ大人と知り合うリスクは、保護者として認識しておきましょう。仕事をしている大人は夜にゲームをすることが多く、ゲームの事業者側も夜にイベントを開催したりするので、つられて子どもも夜更かししてしまいがちです。

ゲームには年齢別レーティング制度といって、対象年齢が設けてあるものも多く、最近人気の『フォートナイト』は15歳以上が対象ですが、小学生でもプレイしている子はけっこういます。周りがやっているから、と友達付き合いを考えて許可する事情はわかりますが、子どもがどのようなゲームをしているのか、ゲームにも対象年齢があることなど、親も把握しておくことが重要です。

ゲーム障害によって起こる問題

ゲーム自体を娯楽として楽しむ分にはまったく問題ありませんが、ゲーム障害になると、生活するうえで支障が出てきます。具体的な問題として、朝起きられない、昼夜逆転、成績低下、学校の欠席、不規則な食事などが挙げられます。ゲーム障害患者の平均ゲーム時間は、平日6時間、休日7時間と、生活の多くの時間をゲームに費やしています。
学力とゲーム利用時間の関係について、国立教育政策研究所の興味深いデータもあります。

全国の小学6年生約100万人の調査結果ですが、ゲーム利用時間が長くなるほど成績が下がっています。ゲームをするから成績が下がるというよりも、単に勉強する時間がなくなることが原因かと想定できますが、なかには、学校の勉強についていけない子がゲームに逃避しているという状況もあるかもしれません。

ゲーム依存の背景に発達障害の可能性も

ゲーム依存の背景を探ると発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)が併存することも、意外によくあります。ADHDの子どもは、落ち着きがなかったり、衝動性が強かったりしますが、ネット・ゲームにのめり込みやすい傾向があるようで、今日はここまで、という我慢ができず怒りだし、暴れてしまうことがあります。思い当たることがあれば、スクールカウンセラーや支援センター、医療機関などに相談していただきたいと思います。

ゲーム依存の対策と予防のヒント

ゲーム依存になってしまうと日常生活でさまざまな困難が生じますし、治療も大変ですので、まず予防することが重要です。ゲーム障害の治療にあたっての考え方が、予防のヒントにもなりますので、具体的に見ていきましょう。

ヒント① 理解し、受け入れ、応援する

頭ごなしにゲームを否定するのではなく、まずは子どものゲームをしたい気持ちを理解し、なぜやりたいのか、このままだと何がよくないのか、一緒に考えていきましょう。そして、ゲーム時間が減らせたなど少しでも改善したところをほめることが大切です。
依存症に限らず、子どもの話をよく聞くことはとても重要です。しかし、意外と子どもの話を聞けていないことも多いものです。本当に子どもの話を聞いているかな? という視点を持つことは大事だと感じます。

ヒント② ゲーム・ネットを2番に

勉強・アルバイト・スポーツなど、現実世界でやりたいことや目標を見つけられると、ゲーム・ネットの時間は自然と減ってきます。やることがなく退屈だからゲーム、となっていると、ゲームをやめても退屈だからすぐに戻ってしまいます。遠回りで時間がかかるかもしれませんが、子どもがやりたいこと、好きなこと、目標を見つけられるようなサポートをすることも重要です。

ヒント③ 居場所づくり

リアルな対人関係を築くことも効果的です。友人、先輩、先生など、信頼できる人との居場所がつくれると、ゲームの世界に没頭しなくてよくなります。
文部科学省が主催している「ネット依存治療キャンプ」というプログラムがあり、ゲーム依存のかたを対象に、治療とキャンプを組み合わせた活動を行っているのですが、トレッキングや野外炊事・キャンプファイヤーなどに、普段ゲームばかりの子どもも楽しそうに参加しています。そのキャンプにメンターとして大学生ボランティアが入っているのですが、その存在はとても大きく、年の近いお兄さん・お姉さんと一緒に過ごすことで、身近な目標となる人を見つけたり、行動しやすくなったりします。そのような斜めのつながりが持てる機会を提供することも、考えたいポイントです。

リアルな体験を提供するネット依存治療キャンプでは、教育学部や心理学部の大学生がメンターとして入る

ヒント④ ルール・環境設定

最初が肝心、という話になってしまうのですが、ゲームやネットは、使う前にルールを決めることが非常に重要です。使い始めたあとにルールを厳しくすることは、大人でもとても難しいですよね。あとから緩めるのは簡単ですが、狭めることはほぼ不可能です。
リビングなど使用場所を限定する、自室に持ち込まない、ペアレンタルコントロールやフィルタリングを設定する、家族みんなでノースマホタイムを設ける、といったルールを最初に決めましょう。ペアレンタルコントロールなどは、逆に子どものほうが詳しくなって自力で突破してきたりもしますが、親も知識を付け、気を付けて見ているよという姿勢を示すことが大事です。

もうすでに持っていて長時間使っており、反抗期で親の言うことを聞かない、という相談もよくあります。ケースバイケースで難しいのですが、第三者が介入すると解決の糸口につながることがあります。きょうだいや祖父母、友人や先輩など、子どもが心を開きやすい人から働きかけてもらうと、きっかけになることも。そのために、親も相談できる人や窓口を持っておくことが大切です。

ヒント⑤ 寝る時間・起きる時間を守る

「ゲーム時間を減らそう」と言うと、子どもは「嫌だ」となりますが、「ゲームをやってもいいからまず寝る時間と起きる時間を守ろう」と言うと、「わかった」と言ってくれることが多いです。患者さんにも繰り返しお伝えする大事な点なのですが、とにかく睡眠をきちんと取ることです。特に子どもは心も体も成長する大切な時期ですが、きちんと睡眠を取らないと成長ホルモンの分泌が妨げられ、イライラしたりします。もちろん大人も、体や心を健やかに保つために重要なことなので、生活習慣を守ることの大切さは強調したいところです。

まとめ & 実践 TIPS

ゲームに依存する理由として、現実世界や周囲の環境への不満があることも。また、最近のゲームはやめにくい設計になっているといった事情も踏まえながら、子どもが現実の世界で充実して過ごせるようにサポートしていきたいですね。


令和3年度 全国学力・学習状況調査 国立教育政策研究所
https://www.nier.go.jp/21chousakekkahoukoku/


(記事中のグラフは資料を元に松﨑氏が作成)

(取材・文/荻原幸恵)

プロフィール

松﨑尊信

松﨑尊信(まつざき・たかのぶ)

独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター精神科医長。2000年九州大学医学部を卒業し、同精神科教室に入局。2010年九州大学大学院で博士号を取得。2013年厚生労働省精神・障害保健課依存症対策専門官を経て、2016年より久里浜医療センターに勤務し、現在に至る。
資格 精神保健指定医、日本精神神経学会認定専門医、日本医師会認定産業医

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