料理は子どもたちにとって総合的な学びの機会 ベネッセ教育総合研究所が子どもの生活・学びの困りごとに応えるシリーズ(12)

新型コロナウイルス感染症の影響による“非日常”が続き、子どもの生活リズムが乱れたり、学習が進まなかったり…。不安を覚えることが少なくないと思います。そこで、ベネッセ教育総合研究所/チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)の木村治生主席研究員が、主に小・中学生の子どもを持つ保護者のかたに向けて、10回にわたって子どもたちの生活と学びについてお話しします。

●今こそ、親子で料理体験を

休校や分散登校などで、子どもが家にいる時間が長くなっています。この時間を活用して、お子さまと料理に挑戦してはいかがでしょうか。料理は、子どもたちにとって総合的な学びの機会でもあります。

まずは、子どもと料理に関するデータをご紹介します。図は、2018年に小学4年生から高校3年生までの子どもを対象に行った「お手伝い」についての調査の一部です。これを見ると、「食器を並べる・片づける」といった簡単な手伝いは6、7割の子どもがしていますが、「料理をする」はわずか2割でした。

このデータは、料理というお手伝いが難しいものであることを示しています。料理をするには、包丁など料理器具の扱い方を教えなければいけませんし、火の扱いも心配です。子どもだけに任せるわけにいかず、保護者のかたは「自分がやったほうが早い」と思いがちです。

だからといって、料理の経験がないままでは、“食”に関する知識や技術を伝えることができません。現代社会は冷凍食品やインスタント食品が充実し、お惣菜の購入や外食も容易ですから、「食に関する知識や技術がなくても生活できる」と思いがちです。しかし、それでは生活費が割高になりますし、栄養バランスの偏りやカロリー摂取も心配です。子どものうちに食に関する知識や技術を身につけておくことは、将来における豊かな食生活につながるのです。

●料理は総合的な学びの機会

それだけではありません。料理は、子どもが能動的に学ぶ“アクティブラーニング”にもなります。さまざまな食材について産地や流通を知ったり、価格の決まり方を学んだりすることは、社会科の学習そのものです。また、旬についての知識は理科の学習に通じますし、調味料の分量や摂取カロリーの計算には、算数の要素が含まれます。さらに、盛りつけでは芸術的なセンスも問われます。このように料理は、「段取りをもって物事を進めていく力」や「クリエイティビティ」が問われる、総合的な学びの機会でもあるのです。

だからといって、「能力を高めよう」などと構える必要はありません。料理をつくりながら、食材のことを話題にしたり、おいしくするコツを教えたりすることで十分。
加えて、保護者のかたが日ごろから家族の好みや栄養バランスを考えて料理をしていることも、伝えられるといいでしょう。そうした経験の蓄積から、食を通じた知のネットワークが広がったり、家庭の食文化や家族を思う気持ちの大切さを学びます。だから、料理が少しくらい失敗したとしても、いっしょにつくったものを家族みんなで食べ、お子さまのがんばりをねぎらってあげてくださいね。

上記記事はベネッセ教育総合研究所が運営するチャイルド・リサーチ・ネット(CRN)に掲載した動画をもとに作成したものです。
チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)は「子どもは未来である」という理念を掲げ学際的、国際的な活動を推進する、インターネット上の「子ども学」研究所です。ベネッセ教育総合研究所の支援のもと運営されています。

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プロフィール


木村治生

https://researchmap.jp/hrkmr/

これまで、子ども・保護者・教員を対象にした調査に携わり、子どもの生活や学びとそれにかかわる周囲の大人の意識・行動に関する研究を行う。
上智大学大学院(教育学修士)、東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~23年)。

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