子どもの不登校で保護者の仕事に影響が。「いきなり離職」の前に相談を!職場とのつながりが大切な理由

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子どもの不登校は、保護者の生活や仕事に大きな影響を与えることがあります。NPO法人キーデザインの調査によると、不登校をきっかけに休職・退職に至るケースは少なくありません。その理由として、「不登校の子どもを自宅にひとりで置いておくことへの不安」や勤務時間に影響が出ることで「職場に迷惑をかけることへのつらさ」、さらには「自分自身の精神状態の悪化」といった回答が多く見受けられます。

離職は収入の減少はもちろんのこと、保護者にとって「社会とのつながり」を失うことも大きな懸念材料です。本記事では、離職がもたらす影響を整理し、保護者が孤立せずに働き続けるための具体的な方法をご紹介します。また、調査を実施したキーデザインの土橋優平代表理事にお話を伺い、保護者だけでなく職場や社会が果たすべき役割についても考えていきます。

この記事のポイント

子どもの不登校で増えている 保護者の4人に1人が “不登校離職”。その背景は?

「子どもがぐずってしまい、職場に遅刻することが増えた」、「学校に行ったあと途中で帰ることになり、職場を早退しないとならなくなった」。こうしたお悩みは、不登校の子を持つ保護者の方々から土橋さんの運営するLINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」に多数寄せられるようになっていました。すでに仕事を辞めた後で相談を受けることも多かったことから、土橋さんたちはいわゆる「不登校離職」の現状を理解するために、2024年2月に調査を実施しました。

無料LINE相談窓口の利用者を対象に、子どもの不登校が家庭に与えた影響についての実態調査を実施(回答は376名)したところ、回答者の約4人に1人が休職や退職を選択していました。さらに、「早退・遅刻・欠勤が増えた」「雇用形態を変えた」も含めると、仕事に少なからず影響が生じている家庭は約8割にのぼっています。

お子さんが不登校・行き渋りをしてからの、回答者自身の仕事への影響について教えてください。すでに時間が経ち過去のことであっても、当時の状況にあてはまるものがある場合はチェックをお願いします。

(子どもが不登校・不登校傾向になったときの保護者の仕事への影響)

調査では離職を選んだ保護者たちに当時の心境を尋ねたところ、「職場への罪悪感や精神的な疲労を感じた」、「近所の目、ママ友や世間体といった社会の目が気になった」など精神的・心理的な負担を感じています。また、「子どもの昼夜逆転や生活リズムの乱れへの対応」や「子どもが暴れる、暴言を吐くなどの行動への対応」といった、子どものケアや安全の確保に時間と労力を割く必要に迫られたという回答もありました。さらに、離職によって収入が減り、貯蓄を切り崩しながらの生活に将来への不安を強く感じているという経済面での不安も浮き彫りになっています。

母親は家庭内の孤立に加え、「キャリアを諦める」つらさも一身に負っている

本調査で「子どもの不登校について夫婦間で満足に相談ができているか」との問いに対しては、「満足に相談できている」と回答した22.6%を除き、「シングルマザー・ファザーである」を含むと77.4%が夫婦間で満足に相談をできていない実感を持っています。「夫の協力が得られなかった」、「家庭内で夫との関係が悪化し、対等ではなくなった」といった回答からは、母親が家庭内で孤独を深めていく実態も見てとれます。

子どもの不登校について、夫婦間で満足に相談できていますか?

(夫婦間で満足に相談ができているのは全体の22%ほど)

また、好きな仕事を辞める口惜しさや、「資格を取った職を続けることができなくなった」、「キャリアの途中で退職せざるを得なかった」といったやり切れなさも多く聞かれ、土橋さんは「その背景に職場での理解の不足があります」と言います。

たとえば 「育て方がよくないんじゃないの?」 や、「子どもに甘すぎる」といった反応を上司や同僚から投げかけられることで、 保護者は職場での人間関係が重荷になってしまいます。また、遅刻や欠勤が増え、職場で謝罪をし続けることで精神的なしんどさに拍車をかけてしまうことも考えられます。
そこで土橋さんは「休職や退職を決めてしまう前にぜひ相談してほしい」と言います。

「家庭でお母さんたちは、不登校のお子さんにつきっきりなうえに、誰かと満足に話し合うこともできません。その結果、追い詰められてしまう傾向があります」と言い、実はここで一気に離職を選択するケースが少なくないのだそうです。ですが、いったん冷静になることが大切で、「離職は社会からの孤立につながるので、きちんとその後の見通しも計画する必要があるのです」。

仕事や職場が持つ社会的な役割とは?保護者が職を手放さない方がいい理由

職場に行くということは、子どもから離れた自分の時間を生きることにつながります。実際に土橋さんに寄せられる相談でも、「大人と話がしたかった」という声が多くあります。仮に離職をするにしても、週に1度でも誰かとつながることが重要で、親の会やカウンセリングなど、外とのつながりをどうやってつくるか?を考えておく必要があります。土橋さんは「職場につながり続けることには3つの価値がある」とし、ひとつが保護者の居場所づくりであり、次に経済的な安定、最後に「親子それぞれの自立」を挙げます。

子どもが不登校になると、保護者は常に子どものことを考えるようになります。実際に、かつての不登校時代を振り返って「自分のせいでお母さんの笑顔がなくなっていくことが悲しかった」という意見はしばしば聞かれ、保護者は子どもの不安ごとや心配ごとを、まるで自分のことのようにとらえて苦しんでしまうことがあります。

互いに居場所が家庭しかなくなることは、親子の距離感を無くし同一化や依存関係に陥りやすくなるのです。土橋さんは、「保護者と子どもが適度な距離を取ることによって、それぞれが自立をしていくことがとても必要。自分自身の幸せとは?と保護者も子どもも向き合っていくためにも、保護者は仕事につながり続けていくべき」とし、フリースクールや塾など、家庭以外の場を子どもが持てるように話し合い、それぞれが独立した一個の人間という考え方を持つことは、家庭内の平和につながるとしています。

企業や社会ができること。働きやすい環境づくりと支援の拡充に向けて

先に挙げた「経済的な安定」も、就労を続ける重要な理由です。離職によって収入が減ることに加え、子どもが家にいることで食費、光熱費のほかゲームなど子どもの娯楽にも支出が増えるからです。そこで、離職を検討する前に職場にパートやアルバイト、時短勤務などの雇用形態の転換を相談してみましょう。職場での理解の不足に心を傷める回答者が一定数いたものの、一方で半数以上が職場や仕事関係者内で「不登校について相談できる人がいる」と回答していることにも注目です。

介護休暇の取得を薦めてくれた上司の存在や、話を聞いてくれるだけで救われたという回答がある反面、「仕事が回れば(勤務の)融通をつけてかまわない」と言われるものの、実際にはひとりでは解決が困難なことが多いのが組織。相談はしたものの、これ以上迷惑をかけられないとして悪循環に陥るケースも想像に難くありません。

そこで企業に対しては、不登校の子どもを持つ保護者(従業員)の困難を理解し、柔軟な勤務形態や相談窓口の設置など、働きやすい環境を整えることが求められます。職場での理解が進むことで、保護者が安心して働き続けられる環境が生まれるからです。土橋さんのNPOでは、企業研修という形でこのような支援の拡充を目指した活動を進めています。

「企業側で自社の従業員に対して理解を促進する環境を整備できないと、たとえばせっかく休業制度を設けたとしても、“批判されるんじゃないか” と思えば利用は進みません」。制度と職場の理解、この両立があって初めて不登校離職を防ぐ職場環境が生まれるとしています。

子どもが不登校にあるとき、子どもも保護者も心と体に不調を起こしやすい状態にあります。生活の基盤づくりの軸として就労を見直すことで、居場所を確保し保護者が社会とつながることで、自分自身の人生を大切にすることができるのです。

プロフィール


土橋 優平

1993年生まれ、青森県八戸市出身。宇都宮大学在学中に生きづらさを抱える子ども・若者の支援を目指し休学し、学生団体を立ち上げ活動。中退後、NPO法人キーデザインを設立。不登校の子ども向けのフリースクールやホームスクールで年間100名以上と関わり、保護者向け無料LINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」には全国から4800名以上が登録。2021年に栃木県経済同友会より「社会貢献活動賞」を受賞。宇都宮市医師会と連携した「不登校ガイドライン」作成や、不登校支援機関をまとめた「不登校ポータルサイト”たより”」を運営。

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