勉強させるには? [中学受験 4年生]

保護者の役割は、成長に応じてベストのタイミングで働きかけ、環境を整えていくこと。お子さまに自分から進んで勉強させるための環境づくりについてお話しします。



■「勉強しなさい」と言う必要はない

現在70歳代以上の世代では、一度も親に「勉強しなさい」と言われたことがない、それでも自分で勉強したというかたが多いようです。現在の保護者のかたに言うと「そんなわけはない」と驚かれますが、実際、お子さまたちに「勉強しなさい」と言う必要はないのです。「しなさい」といって素直に従うのは小学3、4年生くらいまでで、5年生以上になると、命令口調で強制されること自体を嫌がります。

特に4年生くらいのお子さまに対しては、「上から」でも「下から」でもなく、対等の立場で「一緒に勉強しよう」という働きかけが適切。同時に、お子さまが勉強に主体的に取り組めるような環境を整えておくことが大切です。



■「なんでまちがえるの」ではなく「まちがってよかったね」

4年生の春から、塾に行き始めるなど、「受験勉強」を始めるお子さまが多いことと思いますが、ここで保護者のかたにぜひ意識していただきたいのは、受験問題は基本的に「誤答誘導」の問題だということです。

前回お話ししたとおり、初学者には、やさしい問題をどんどんやって達成感を味わい、ものの考え方を感覚で身に付ける学習法が向いています。ところが受験問題は受験生を振り落とすためのものですから、あちこちに落とし穴がしかけられた「誤答誘導」になっており、お子さまがまちがえるのは当然なのです。わざわざ道に迷わせておいて、「まちがえてだめだね」などと言ったら、お子さまが勉強嫌いになるのも当たり前ですよね。

ですから、お子さまがまちがえたらむしろ「いいまちがいをしたね」と言ってあげることが大切です。なぜ解けないのかを自分で考え、発見していくのが勉強であり、「解けなくて悔しい」から「解けるようになりたい」と感じるのが人間の思考です。ですから保護者は、お子さまが「やろうとしているのにできない」ことをぜったい叱ってはいけません。



■保護者の役割はタイムキーパー、インストラクター

保護者の役割は「タイムキーパー」と「インストラクター」、それにお子さまが主体的に勉強に取り組めるような環境づくりの3つと考えてください。

●上手なタイムキーパーのやり方
塾に行くにしろ、家庭で取り組むにしろ、勉強のスケジューリングと時間管理を保護者が手伝ってあげてください。受験勉強を始めたばかりのころは、お子さまの負担にならないようごく短時間、やさしい問題に取り組ませるのがよいでしょう。今日は何をやるか、お子さまに選ばせることが大切です。前回もお話ししましたが、問題の難易度は急に上げないこと。
お子さまが「もうちょっと難しい問題を出して」と言うまで待つのが理想的です。

●よいインストラクターであるために
お子さまは「わからなくて当然」と考えましょう。
わかりやすく教えるのは、なかなか難しいことです。ぜったい初見で教えずに、どう解説すればわかりやすいか、参考書などを見比べて研究してください。絵や図、さまざまなたとえを駆使して、お子さまの反応をよく見ながら教えていきましょう。教える過程で話が脱線しても、全然かまいません。むしろ、雑学、脱線は勉強の命です。あちこちに話を広げ、アンテナを張っていくと、どこかでお子さまの興味に引っかかるものです。



■「勉強する」とは「大いに遊ぶこと」。自分で勉強の世界を広げていける環境づくりを

4年生の段階で、特に難しくなるのは国語です。読む文章が長くなり、指示語の内容や主人公の気持ちが問われるようになるため、お子さまが国語嫌いになりやすい時期といえます。
家庭でやってほしいのは、受験勉強以前に「文章で遊んであげること」です。たとえば文章を絵にしてみたり、親子で役割を決めて朗読したり、主人公以外の人物を主役にしてお話をつくったり……。遊びの中で、文章に描かれている情景や登場人物の感情を思い描いたり、文脈を読み取ったりする力が付きます。感情を読み取ることが国語の基本であり、問題を解く前提として大切ですが、日本ではそのための教育はあまり行われていないため、家庭でこそ取り組んでいただきたいと思います。

また、ぜひ辞書や事典、図鑑を手元に置いて、わからないことを自分で調べたり、観察したりするおもしろさを実感できる環境づくりをしてあげてください。昆虫や魚など身近な生き物が好きな子、電車や機械が好きな子、ことわざや漢字が好きな子など、お子さまの興味のアンテナはさまざまな方向に向いています。お子さまが五感で感じたことと知識を、自分で結び付けていく体験が大切なのです。自分の好きなことが知識と結び付いて、自分の世界が広がった――それが、「自分が勉強の主人公である」という実感となります。つまり、勉強することは「大いに遊ぶこと」なのです。

いくら「勉強しなさい」と言っても、やらされて覚えた知識はぜったい身に付きません。自分が勉強の主人公であるという感覚を、この時期ぜひ持たせてあげたいですね。

10歳の選択 中学受験の教育論10歳の選択 中学受験の教育論(森上展安著、森上教育研究所編、ダイヤモンド社)
<ダイヤモンド社/森上展安(著)、森上教育研究所(編)/2,160円=税込>

プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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