社会的能力の教育を考える[中学受験]

人間教育というと、人間性の教育を指している場合が多く、社会的能力は脇役だ。社会的能力の教育を重視している学校は少ないと思う。つまり、コミュニケーション能力・行動力・協調性・継続力などの社会的能力を身につけることは必要だと考えているが、それらの能力を身につけさせることを目的としてはいないのだ。学校は、社会的能力が生徒同士や教師と生徒との接点で、自然に育まれるものと考えているのではないか。確かに、自然に身につける生徒もいるが、教育することでもっと多くの生徒に身につけさせることができるはずだ

社会的能力は小学生の時代に学校や家庭で身につけるべきものと考えているのではないか。しかし、社会的能力が実際に体験してみて理解できることであれば、小学生が体験することはまだ少ないので、理解できることも限られるはずだ。そして、社会的能力とは現実的には、中学校から高校の時期に体験することで理解し、身につけるものなのだと思う。大学生や社会人になると、身につけたくとも、なかなか身につかなくなる。むしろ、それらの能力を活用すべき時期となる。社会的能力は自然に身につくと考えている先生方は、いかに社会的能力が身についていない学生が多く、高学歴でも社会的能力が低いため希望する企業に入れないという現状をあまり知らないのではないか。

中学校・高校では行事を体験として捉え、それを活かし、生徒自身で社会的能力を高めてもらう、という考え方をしている。学校は生徒自身が社会的能力を理解し、身につける環境を用意するだけで、直接教育することはないが、学校によって用意している環境に差がある。行事の内容を調べてみると、生徒が理解しやすいような形態で、社会的能力の要素をたくさん盛り込んだ行事を用意している学校もある。よく探してみると、行事を教材と捉え、積極的に社会的能力の教育に取り組んでいる学校があった。行事の中にあるコミュニケーション能力・行動力・協調性・継続力などを取り出し、一つひとつ行事を行うことで体験しながら理解させるのだ。考えてみると社会的能力をシステム的に教えるには行事が最適かもしれない。

人間性の教育でもそうであったように、社会的能力でも理解させることと身につけさせることは異なる。人間性は、日々の生活指導で身につけさせているようだが、社会的能力は、どのように身につけさせるのか。教材となっていない行事や部活や生徒会活動で繰り返し練習すれば身につけられる。生徒自身が何を身につけるべきかを理解でき、身につけたいと願えば、機会を捉えて実践することで身につけられる可能性は高くなる。

学校説明会で、社会的能力の教育に取り組んでいる学校を探すことは難しいが、社会的能力が高い在籍生が多い学校を探すことはできると思う。そのような学校は、社会的能力を高める環境が整っている学校と考えてもよいのではないか。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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