要素の片方が抜けてしまうことが多い[中学受験]
平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。
質問者
小5女子のお母さま
質問
物語の内容が自分と異なる環境の子どもだと読み取れません。記述は、二つの要素を書くことで正解となる問題で、要素の片方が抜けてしまうことが多く、根拠となる事柄を見つけて書くことが苦手です。
小泉先生のアドバイス
「気持ちや理由は複数の場合がある」などを常に心にとめながら問題演習をくり返す
「要素の片方が抜けてしまうことが多い」というのは、「記述の多様性」が意識できていないということだと思います。「記述の多様性」とは、わたしが作った言葉ですが、その時の「気持ち」や「その気持ちになった理由」はひとつとは限らないということです。
たとえば、B君がA君を非難したために(言動)、A君はB君に腹を立てた(気持ち)とします(図1参照)。しかし、単に「腹を立てた」だけではなく、自分のことを叱ってくれて「ちょっとうれしかった」という気持ちも同時に持ったとします。すなわち、「腹立たしいが、ちょっとうれしい」という複雑な気持ちを人は持ち得るということです。
複雑な気持ちになることは現実でも物語でも起こり得ますが、物語の場合では「腹を立てている」や「ちょっとうれしい」などを文章のどこかで表現してくるはずです。そして、このような表現を受けとめるためには、解答者は常に「気持ちはひとつではないかもしれない」という心構えで問題文を読むと良いでしょう。
あるいは、解答欄がやけに広いとか(1行ではなく、2行、3行とスペースが大きい)、制限字数が40字以上の場合もこの「記述の多様性」の可能性が大きいと注意すべきでしょう。さらに、気持ちはひとつでも、その気持ちになった「理由」が複数の場合もあり得ます。これも「記述の多様性」として、答案作成の時に注意すべき点だと思います。
【図1】
【図2】
それからもうひとつ。「記述の多様性」では、「複数の相手」に対する気持ちを考えることも大切です。たとえば、B君がA君を非難して、A君はB君に対して「腹が立った」が、同時に、一緒にいたC君に対しては「恥ずかしい」気持ちを持つような場合です(図2)。こんな時には、C君に対する気持ちも答案に入れないと減点される可能性があります。さらに、そんなことを思っている自分が「情けない」などと、自分に対する思いにも触れる必要があるかもしれません。
それらの気持ちにどこまで触れたら良いかは、先ほど述べたように、答案欄の大きさや制限字数の多さによります。そしてもちろん、これらの心情を直接的・間接的に表す表現が本文にあることは大前提です。
以上、「記述の多様性」について述べましたが、解答者は書くべき要素をつい抜かしてしまいがちになります。「気持ちや理由は複数の場合がある」「気持ちは自分を含め複数の相手に対する場合がある」などを常に心にとめながら問題演習をくり返すことで、多様な気持ちをつかめるようになってください。開成や桜蔭などのいわゆる御三家の中でも、武蔵の記述問題はこの「記述の多様性」を意識した答案が求められることが多いようです。