第11回 「活用する力」と適性検査問題

2009年4月からの新教育課程の移行措置に対応するため、今、小学校の現場では、教師たちが「活用力」をどのようにとらえ、授業にどう反映させていくか、思考力・判断力・表現力等の育成・向上に向けて授業改善の具体的な方法の研究に余念がありません。新学習指導要領は小学校では2011年から本格実施されるのに先立ち、算数・理科の授業時間数が増加し、これまでの中学校の学習内容が小学校に下ろされることになりました。

第11回 「活用する力」と適性検査問題


ただ、文部科学省は学習量を増やしただけでなく、新学習指導要領の基本方針として2番目に、[基礎的・基本的な知識・技能の習得]と[思考力・判断力・表現力等の育成]を学習の両輪とした「バランスの重視」を唱えています。なお、1番目には「生きる力の育成」、3番目には「豊かな心と健やかな体の育成」を挙げています。さらにPISA(OECD生徒の学習到達度調査)で明らかになった読解力の低下を克服すべく、すべての学習活動を通して「言語活動の重視」を挙げています。
全国学力・学習状況調査には、身につけておかなければあとの学年等の学習内容に影響を及ぼす知識や技能を問う「知識(A問題)」に関する問題と、その知識や技能を実生活のさまざまな場面で活用する「活用(B問題)」に関する問題があります。このうちB問題に見られる「知識・技能等を活用する力」の育成・向上が、小学校の授業で本格的に図られることは、適性検査とどのようなかかわりをもつのでしょうか。

私立中学の入試では、全国学力・学習状況調査のA問題レベルが出題されることはまずありません。しかしB問題のような「活用」型の問題かというとそうともいえず、むしろA問題を超えた知識・技能の定着を測るものといえます。ただ、最近の入試問題はPISA型の問題が知られるようになったこともあって、一部の私立学校では「活用」型の出題が垣間見られます。一方、公立中高一貫校の適性検査では「学力試験」は禁止されていますので、「活用」型の出題になります。したがって、適性検査を受ける児童は、ますます小学校の学習が重要になってくるといえるでしょう。

さて、全国学力・学習状況調査の結果を文部科学省の資料で見ると、興味深いことが見えてきました。
「平成20年度 全国学力・学習状況調査【小学校】報告書」の「教科に関する調査の結果」において、(3)「知識に関する調査と活用に関する調査の相関」がバブルチャート(☆)で表されています。


☆バブルチャート:2軸の座標軸の上に、大きさが3軸目の指標を示す円上の図(バブル)を配置した図表


国語Aと国語Bの相関…正答数(国語A)×正答数(国語B)

算数Aと算数Bの相関…正答数(算数A)×正答数(算数B)

これによると、A問題とB問題の相関は、小学校も中学校も国語と算数/数学ですべて以下の結果となっています。

1. B(活用)の正答数の多い児童生徒は、A(知識)の正答数も多い。
2. A(知識)の正答数が多い児童生徒は、B(活用)の正答数において広く分布している。

言い換えると、(活用)で高得点をとる子どもは、(知識)でも高得点をとる場合が多いが、(知識)で高得点をとっても、必ずしも(活用)で高得点をとることが多いとは言えず、その分布は広く分散する、ということです。
この結果からいえることは、ある公立中高一貫校の校長先生が言った(第2回コラムでご紹介)児童の『質』すなわち「将来にわたって学力の伸長の可能性の高い子ども」を見抜くには、知識・技能を重視した学力試験よりも、「知識・技能の活用力」を重視した試験を課すべきである、という事実です。この点で、適性検査は理にかなった検査であり、今後の学力観を変え、学習塾や私立学校の、ひいては大学受験の「試験」の観念を揺るがすものになるといえます。


プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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