第14回 国語読解力とPISA型読解力(1)
第13回コラムに引き続き、公立中高一貫校の適性検査問題の「読み取る力」について説明します。
「読み取る力」というと「読解力」という言葉に置き換えられますが、適性検査問題の「読み取る力」は、一般的に使われる「読解力」より広い概念といえるでしょう。
従来の国語「読解力」は、「文章を読んで、その意味・内容を正確に理解する力」でした。私は国語「読解力」をさらに、
1)個人が文学的文章などの読書場面で行う「読解」
2)学校の国語の授業で行う「読解」
3)学校のテストや入試で行う「読解」
の3つの場面に分けています。
1)の読書は一人読みをして作品を味わう「読解力」ですから、個々人の自由な理解が許されます。2)の学校の授業での読解は、一人ひとりの主観的で多様な読みが、子ども同士または子どもと教師の間で意見の交換が行われ、正確で客観的な理解に近づくように検証されます。一方、3)のテストや入試での読解は、表現のしかたにある程度の解答の幅は認められるものの、普通は作問者によって、正解が一意的・客観的に決められています。また、多様な解釈が可能な場合でも、解釈の条件が定められ解答の枠が設定されますから、設問趣旨から外れる個々人の自由な理解や解釈は採点の対象外となります。
●
このような3つの従来の国語読解力に対して、新しい「読解力」として登場したのが、いわゆる「PISA型読解力」といわれるものです。OECD(経済協力開発機構)が行うPISA(生徒の学習到達度調査)は、「義務教育を修了した15歳の生徒に対し、社会経済生活に完全に参画し、生涯にわたる学習者になれるような知識、技術がどのように身についているかを評価するもの」です。そして、その評価内容と方法は「従来の知識の量を測定するものではない」といわれています。
PISAは3年サイクル(2000年、2003年、2006年)で行われ、2009年の今年も行われる予定です。日本では全国から抽出された高校1年生約4,700人が参加し、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決能力の4分野(2003年の場合)で調査されます。
このうち「読解力」について、2003年に日本は世界第8位から14位、そして2006年には15位に順位を下げたことから、新聞などで大々的に「学力低下」が報じられたのでした。
この「PISA型読解力」は、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」とされています。そして、ここで取り上げられた「書かれたテキスト」とは、文学的文章や説明的文章など、文字などで記述された文章(連続型テキスト)だけでなく、図、表、地図、グラフ、写真など(非連続型テキスト)を含めた資料といったようにあらゆる事物を指しています。
つまり、PISAの「読解力」で取り扱われる問題内容は、今までの学校教育で扱ってこなかったような実際的課題であり、従来の国語の枠を超えて理科、社会にまで関連する幅広い内容となっているのです。また、解答形式は、自由記述が全問題の約4割を占めています。2003年の日本の高校生の結果は、2000年に比べ「自由記述問題の正答率が低下し、自由記述問題の無答率が上昇した」、すなわち「白紙解答の生徒が多くなった」というものでした。さらに「読み取ったことを根拠にして、自分の意見や考えが表現できない」高校生の実態が指摘されたのです。
この調査結果の影響については、次回に説明します。