英語は早く始めるほど効果的? 乳幼児期に英語学習を始めるメリットとは?
- 新課程の英語特集
佐藤久美子先生 玉川大学大学院教育学研究科名誉教授
聞き手 加藤由美子 ベネッセ教育総合研究所主席研究員
乳幼児期は、英語を聞いたり、マネしたりが上手!
加藤:佐藤先生は、長年にわたって乳幼児期の子どもがどのように言葉を獲得するかを研究されています。また、乳幼児から大学生まで幅広く、英語教育とその研究にも携わってこられました。最初に、乳幼児期に英語を学び始めるよさを教えてください。
佐藤:幼い子どもは大人のまねをしながら、次第に言葉を覚えていきます。最初は大人が発する言葉をそのまま言うだけですが、言葉を反復していくうちに、意味や文の構造を理解し、語彙(ごい)も増えていき、徐々に質問に答えたり自由に発話したりできるようになります。乳幼児期から英語に触れることで、そのような言語習得の自然なプロセスに沿って英語力の基礎をつくれる可能性があります。
英語に限らず、新たな言語を身につけるうえで出発点となるのは、相手の言葉を反復することです。乳幼児期、とりわけ2歳頃の子どもは、発達段階の特性上、反復を嫌がらず楽しみながら取り組むので、学びの効果が高くなります。
6〜7歳頃には、日本語のアクセントや音声の特徴がしっかり身につくため、その時期以降は、日本語の影響を強く受けて外国語に触れることになります。大人になると、「日本語なまり」の外国語となるのはそのためです。5歳くらいまでは、日本語の影響を受けずに英語の音をそのまま聞くことができるので、英語らしい発音やアクセント、イントネーションなどが身につきやすいのです。
乳幼児期に英語に触れるメリットには、親子のコミュニケーションが豊かになる点も挙げられます。研究などの際、英語に触れるお子さまや保護者のかたにお会いすると、とても楽しそうにやり取りしながら学ぶ姿が印象的です。そのように早い時期から英語によるコミュニケーションの楽しさを知ることは、お子さまにとって大きなプラスになると感じています。
早期に英語を学び始めると、日本語の習得に悪影響はないの?
加藤:英語を学び始める時期が早過ぎると、日本語の習得に悪影響があるのではないかと心配する声もありますが、実際はどうなのでしょうか。また、英語に触れる時間など、気をつけたほうがよいことはありますか。
佐藤:仮に毎日英語を学ぶとしても、生活の大半は日本語に接して過ごすわけですから、心配されるような悪影響はありません。むしろ英語の反復学習を繰り返すことで言語の情報処理能力が向上し、日本語の習得にもよい影響がもたらされるといった研究結果もあります。
中には、お子さまを英語のネイティブスピーカーのように育てたいと考える保護者のかたもいらっしゃいます。しかし、そこまでの英語力を身につけるためには、ほぼ1日中、英語に囲まれて生活するような環境にいないと難しいでしょう。また、そういった環境は、日本語の獲得にも問題をきたす可能性もありますので、お勧めできません。
英語には毎日触れることをおすすめしますが、たとえば1回10〜15分程度のものを、体調や機嫌などに配慮して、できる範囲で行うのがよいと思います。
聴かせっ放しはNG。英語力の基礎は「やり取り」を通して育つ
加藤:乳幼児期に英語を学び始めるうえで注意したほうがよいことを教えてください。
佐藤:DVDやCDなどで英語の音声を聴かせっ放しにすると、自然と英語力が身につくという話も聞きますが、それは事実ではありません。英語に限らず、あらゆる言語は双方向のやり取りをとおして習得されることが、様々な研究から明らかになっています。デジタルを含め他の教材などを活用する場合も、同様のことがいえます。
最近は、英語学習を行う幼稚園なども増えていますが、単にゲームや遊びに英語を取り入れているだけの場合も見られます。子どもが英語に関心を持つという面ではよいかもしれませんが、意味を考えながら、人とのやり取りをしないと英語力の基礎はなかなか身につかないでしょう。
また、短時間でもよいので毎日英語に触れることが大切です。たとえば、英会話スクールに通うのが週1回だとしても、そこで学んだ教材などを使って親子でやり取りするなどの時間を毎日短時間でも持つとよいと思います。
家庭で英語を学ぶ際には、保護者に英語力は必要?
加藤:英会話スクールや教材は、どのように選べばよいでしょうか。
佐藤:子どもの成長に合わせて効果的に英語を習得するためには、発達段階に沿ったカリキュラムが整っていることが大切です。日本語でもできないようなことを英語でさせるのではなく、ハードルを低くして、英語に楽しく出会えるようにしてください。
そのうえで意識してほしいのは、お子さまとスクールや教材との相性です。たとえば、スクールや教材を試してみて、「この先生と話してみたい」「この教材が面白そう」などと、お子さまの英語への意欲が高まる環境を用意することが大切でしょう。
加藤:英語学習において、保護者と子どもとのかかわり方で意識したほうがよいことはありますか。
佐藤:乳幼児期は、英語を「お勉強」とはとらえず、遊びの中に取り入れると、子どもが夢中になりやすく効果も高まります。英語の絵本や歌、ダンス、ごっこ遊びなどをとおして、親子で一緒に英語を楽しむというスタンスで取り組んでみてください。
英語があまり得意ではないという保護者のかたから、「子どもと英語でやり取りをしたいけれど、自分の発音をまねしてほしくない」といった相談を受けることがあります。しかし、そうした心配には及びません。子どもは英語の発音やアクセントに関しては自然と英会話スクールの先生や教材などをまねることがわかっており、保護者と子どもの英語の発音には相関がないことも研究で明らかになっています。
子どもに接するうえで大切なのは、保護者の英語力ではなく、子どもの英語学習の内容に興味を示したり、一緒に楽しんだりする態度です。お子さまの興味や関心を最もよく理解しているのは保護者の方です。だからこそ、「こんな問いかけや返答をすると喜ぶだろうな」などと考えながら、英語でも日本語でもよいので声をかけ、お子さまの意欲を高めてあげてください。ご自身の英語力は気にせず、一緒に楽しもうという気持ちを持って、目と目を合わせたり、スキンシップをしたりして、お子さまと英語を使ってみるコミュニケーションをたくさん行っていただきたいと思います。
加藤:乳幼児だからこそのメリットを踏まえつつ、親子で一緒に英語に出会い、遊び、やり取りを楽しむことの大切さがよくわかりました。佐藤先生、本日はありがとうございました。
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