目のみえない白鳥さんと直島でアート鑑賞。対話を通じて「みる」ことを広げよう。【直島アート便り】
- 教育動向
ベネッセアートサイト直島では、周囲の自然や環境と関わりあう作品の鑑賞を通じて、自己・他者との対話や、五感を使った体験を大切にしています。
2022年11月13日(日)に、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトにしているベネッセハウス ミュージアムにて、全盲の美術鑑賞者・白鳥建二さんと、京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センター 研究員・伊達隆洋さんをお呼びした鑑賞ワークショップを開催しました。
この記事では、対話や五感を意識することによる美術鑑賞の可能性についてレポートします。
この記事のポイント
白鳥さんと作品を鑑賞する
白鳥さんは生まれつき強度の弱視で、中学くらいにはほとんど見えなくなり、20代半ばで全盲になりました。美術館デートをきっかけに、鑑賞に興味を持ち、単独で美術館へ行く活動を始め、20年以上鑑賞会などに関わっています。白鳥さんは作品を鑑賞するとき、参加者の皆さんに「説明しようとしなくてよい」と言います。
参加者は思い思いに作品を見て発見したことを口にしたり、考えているときは静かに集中したり、白鳥さんを囲んで鑑賞すると不思議と自然体で鑑賞しながら、じっくりと作品に向き合うようになっていきます。
ヤニス・クネリス「無題」は、1996年に直島で制作された作品で、廃材や布などを鉛で巻いたものが積み上げられている。
今回鑑賞したヤニス・クネリス「無題」では、「食べ物に見える」という参加者の発言から、「家庭によって食事の好みや習慣も違う」、「確かにお茶碗もいろんなものがある」などと、日常生活や食文化について話が広がっていったり、以前にもこの作品を鑑賞したことのあるリピーターのかたは「何度も見ているので先入観を取り除くのは難しいけれど、何も中に巻かれていないパーツがあるのは今日初めて気付いた」など、白鳥さんを中心として参加者同士が話すことで新しい発見が得られたりする場面もありました。
伊達さんと作品を鑑賞する
伊達さんは対話型鑑賞の実践やファシリテーターの育成などに従事されています。作品を通じて「みる・かんがえる・はなす・きく」ことを意識し、作品から受けた印象や、その印象がどこからきているかについて考えたり、他の人の意見を聞いたりすることで、新しい発見や解釈に出合えるよう、参加者と対話を重ねながらナビゲートしていきます。
柳幸典「ザ・ワールドフラッグ・アントファーム1990」は、着色された砂で国旗が描かれているプラスチックケースがチューブで繋がれている作品。チューブの中を蟻が通って国旗に巣をつくった跡をそのまま展示している。
今回鑑賞した柳幸典「ザ・ワールドフラッグ・アントファーム1990」では、伊達さんの問いかけによって、「蟻という自然の存在と、人間によってつくられた国家の関係性について考えさせられた」、「人間にとっては国が蝕まれているとも取れるが、蟻にしてみると巣をつくるという建設的な作業なので、立場によって考え方が変わる」など、さまざまな解釈が共有されました。
作品鑑賞を通じて気付いたこと
イベントの最後に、白鳥さん・伊達さんを囲み、体験の感想を共有しました。
「現代アートをみるのは苦手だったけれど、タイトルや作品の説明に縛られず鑑賞できたのが気持ちよかった」
「人の意見を聞いて、自分の見方が反転した瞬間が楽しかった」
「同じ作品をみてもラーメンから宇宙まで、想像するものが幅広い。同じものをみているのだから何か共通性があるはずだけど、分からなくてモヤモヤした」「でも答えがないところが面白いと思う」
今回の参加者の中には、直島の美術館は何度も来ているというかたもいらっしゃいましたが、「今日はとても発見が多くて、いかに普段みていなかったかということに気づかされた」という感想もありました。
ベネッセアートサイト直島では、作品のどこをみて、何を感じ、それは自分の中のどこからきているのかについて思いめぐらせることを大事にしています。それは、鑑賞者一人ひとりにとっての「Benesse」(=よく生きる)に気付くことに繋がると考えているからです。
自分の解釈を言葉にしたり、他人の異なる意見や視点に触れることで、より自己理解が深まるともいえます。
今回のイベントでは、2つの異なるアプローチを体験いただいたことで、作品鑑賞を通じてどのように自分のみているものや感じたことが言葉になっていくのか、さまざまなプロセスを体感し、作品をきっかけに多くのことに気付いたり考えたりする機会になったのではないでしょうか。
ベネッセアートサイト直島の作品は空間や周囲の自然と関わり合うものも多くあります。五感を意識したり、視野を広げたりすることで、作品の印象やそこから考えることもさまざまに変化し、日常生活ではあまり思いつかないテーマについて考えるきっかけになるかもしれません。
ベネッセアートサイト直島の作品とじっくり対話しながら、自分の思考に出合う経験をしてみてはいかがでしょうか。
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