生徒の自己評価も向上。オンライン対話型鑑賞の研究【直島アート便り】
- 教育動向
ベネッセアートサイト直島では、2022年よりベネッセホールディングスと共同で、中高生向けの対話を使った作品鑑賞の効果に関するオンライン授業の研究をスタートしました。この記事では、生徒の非認知能力の変容の可能性についてレポートします。
ベネッセアートサイト直島の対話型鑑賞とは
ベネッセアートサイト直島は、ベネッセの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」について鑑賞者一人ひとりが気付き考える場を目指しています。
学生を始め、幼児からシニアまでを対象に学びを目的としたプログラム「BASN Learning &Practice」では、作品鑑賞が自分の「よく生きる」について考えるきっかけになるよう、対話を活用した鑑賞方法を導入しています。
本プログラムで鑑賞するベネッセアートサイト直島の現代アートは、正解とされる見方はないため、鑑賞者が自分なりの解釈をすることができます。鑑賞者が作品のどこに着目し、それはどんな自分の記憶や関心事と結び付いているのか、そこから気付く自分の価値観や大切にしていることは何かを、ファシリテーターが問いかけることによって言語化していきます。
中高生向けオンライン対話型鑑賞の授業構成
今回の研究授業は、2か月から6か月の期間を設けて4~5回にわたり、毎回異なる作品をファシリテーターと鑑賞します。取り上げる作品によって自分なりの解釈の考えやすさが異なるため、初回はわかりやすいモチーフが描かれている絵画作品からスタートし、段階を追って抽象的な作品や、インスタレーション作品の動画視聴などに展開していくことで生徒が観察眼や思考力を少しずつ身に付けていけるよう設計しています。
また、作品から気付くことだけではなく、その周囲を想像してみたり、物語を作ってみたり、日常生活に置き換えて考えたりするきっかけになるような問いかけを追加していくことで、創造力や連想力を養うことも目指しています。
アフターワークでは、グループで共有されたさまざまな作品に関する印象・解釈を客観的に整理したあと、その中で自分らしい視点や個性はどこにあったのかを振り返る個人ワークも実施しています。
授業では、始めは目に入ったものの単語を並べて発言していた生徒も、回数を重ねるにつれ、着目した部分から受けた印象・感情やその根拠も話すようになるなど、思考や言語化の変化も見られました。
対話型鑑賞の経験から期待できる効果とは?
今回の実証研究は、2021年度に47名の生徒を対象に行った3回のトライアル授業の結果をもとに行っています。
トライアル授業を受講した生徒のアンケートからは、非認知能力を含めた自己評価全体について、受講前の数値と全講座受講後の数値との差分平均値から37名(78.7%)の自己評価が向上していることがわかりました。
ベネッセホールディングスのプレスリリースより 図1・表1共に受講生徒アンケート有効データ47名の数値(2021年度)
参加した生徒へのヒアリングにより、日常生活への変化も見られています。
・自分には夢がないという悩みがあったが、授業を受けた頃から将来の夢について考えるようになった。
・他の人がどんなことを考えているかだけでなく、自分についても知ることができた。
・他の人がどう思っているのか想像するようになり、社会科の歴史上の出来事も覚えやすくなった。
・他の人と考えが違っても、積極的に発言できるようになった。
・アート以外にも周りの色々なものに興味をもって自分の意見だけでなく他の方の意見をしっかり聞き、自分が持ってない考え、感じ方を得たいなと思った。
2022年度は対象を約400名に拡張し、ベネッセアートサイト直島の作品を対象に対話を用いて鑑賞することで非認知能力がいかに変容するか、その結果どのような行動変化が起こるか、クラスや学年全体での学びへの影響を含め、実証研究の分析を進めています。
まとめ & 実践 TIPS
ベネッセアートサイト直島では、より多くの生徒に自己理解に繋がる作品鑑賞を提供することを目指し、2023年3月に全国の中学1年生・2年生を対象にした「アート鑑賞を通して自分と未来について考える14歳アートフェス」も開催予定です。
これからの未来をつくる学生が自分の将来について考えたり、変化が大きく正解のない時代を生き抜く力を身に付けるために、ベネッセアートサイト直島の作品を鑑賞し自分の価値観に気付き自由に発言したり、自分にはない他者の視点に触れたりする経験をしてみてはいかがでしょうか。
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