小学校英語の専門家に聞く!授業でのICT活用と家庭でできる効果的なサポートとは?
- 新課程の英語特集
佐藤久美子先生
玉川大学大学院教育学研究科名誉教授
聞き手 加藤由美子
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
GIGAスクール構想で一人一台端末が配布され、学校教育でのICT活用が進んでいます。たくさんの地方自治体や小学校で、先生方の英語指導や研修に携わられている佐藤久美子先生にお話をうかがいました。デジタル教科書や教材の活用状況、ICTを活用した指導事例とともに「ICTを活用して家庭でできる効果的なサポート」についてアドバイスをいただきます。
参考:新学期からの英語の授業はデジタル教科書? 紙の教科書との違いは?
デジタル教科書や教材は小学校英語教育でどのように活用されているのか?
加藤:デジタル教科書では拡大・書き込み・保存、文字の読み上げ、朗読などができるようになり、機能の広がりを感じます。教科書会社によって教科書の内容は違うかと思いますが、実際の小学校英語の授業では、どのように活用されているのでしょうか。代表的なものを教えてください。
佐藤先生:現段階では、子どもが自分の端末でデジタル教科書を使用するというより、先生が電子黒板などでデジタル教科書などを提示したものを見ながら学習することが多いようです。英語学習の基本的なことの例で言えば、チャンツ(一定のリズムに乗せて英文を言うもの)を使った学習では、音と一緒に画面上に英文が表示され、読むところに合わせて文字の色が変わったりしますので、文字を確認しながら英語を言う練習ができます。また、画面上に英単語を表すイラストが提示され、その単語の音が聞けるので、真似して言うこと、その文字を書くことを子どもにさせている先生もいます。
加藤:デジタル教科書の他に副教材として動画があると聞きましたが、どういうものでしょうか。
佐藤先生:こちらも活用している学校はまだ多くないようですが、外国人と日本人が英語で対話しているもの、英語のスピーチのモデル、いろいろな国の子どもによる自己紹介の動画などがあります。動画を使うと、どのような場面や状況で、どんな英語を使うのか、子どもはリアルに学ぶことができます。
ICTを活用したオンライン交流で校外の人とつながる指導事例
加藤:その他にデジタル技術が発達して、英語の指導上よくなったと思われることはありますか。
佐藤先生:以前は校外の人とつながることは難しかったです。10年ほど前に日本と台湾の小学生が交流するプロジェクトを行ったのですが、当時のシステムは運用と費用の両面で負担が大きかったです。他の学校では、海外の学校との交流において、自校や町の紹介をビデオ録画したものをお互いに送り合って見るようなことをしていましたね。ところが今はリアルタイムで校外の人と交流できます。ある小学校は、校区内の外資系ホテルの外国人従業員の方とオンラインでつながり、自己紹介をしたり、自分たちの町について調べたことを英語で紹介したりする活動をしていました。学校によっては県を超え、お互いの町の様子を動画や写真を使って英語で紹介し、感想を言い合ったりする活動を定期的に行っているところもあります。ICTがすぐに行けない場所への距離と時間を超え、教室の中で今までできなかった経験をさせてくれるようになりましたね。
子どもの英語力向上や成長にICTはどう役立つのか?
加藤:小学校英語教育におけるICT活用についておうかがいしてきましたが、子どもの英語力の向上や成長にどのように役に立つとお考えですか。改めて教えてください。
佐藤先生:子どもが英語の音声に気軽にアクセスできるので、英語らしい発音で話す学習がしやすくなりました。デジタル教科書の音声読み上げや朗読機能、副教材の動画を使うと、英語らしい音を繰り返し聞けます。すでにご紹介しましたが、チャンツなどのリズムを使って英語を言う学習も繰り返し行うことができます。子どもは英語らしい発音で話せるようになるとうれしそうで、英語学習への意欲も高まるようです。また、子どもが調べること、考えることに取り組みやすくなりました。校外の人との交流の指導事例でもお伝えしましたが、知りたいことを調べ、よく考え、英語で質問したり、感想や意見を聞いたりすることが、主体的な学習の幅を広げ、これまで経験できなかったこともできるようになってきています。
ICTを活用して家庭でできる効果的なサポート
ベネッセ教育総合研究所の調査によると、頻度はさまざまですが一人一台端末を家庭に持ち帰らせている小学校教員の割合は約4割でした。端末の持ち帰りの状況は自治体・学校・教員によって異なっていますが、今後は増えていくことが予想されます。そこで端末を使って家庭でできるサポートを佐藤先生に教えていただきました。
出典:ベネッセ教育総合研究所「小中学校の学習指導に関する調査2021ダイジェスト版」
●端末の家庭持ち帰りがある場合
デジタル教科書や教材をお子さまに見せてもらい、どんな英語の音が出てくるのか一緒に聞いたり、繰り返したりしてみてください。ゆっくり聞けるように調整する機能もあったりしますので使ってみてください。英語のやりとりの見本の動画を見ながら、親子で役割を決めてやりとりしてみることもおすすめです。見本があるのでおうちのかたも安心ですし、英会話の学び直しにもなります。また、学校の復習としてドリル問題を一緒に解いてみるのもよいでしょう。問題を解いて正解だと「ピンポーン」と音が出たりするので楽しいです。
●ご家庭の端末にキーボードがある場合
キーボードを使って入力する練習を促してみてください。入力ミスが減り、速度も上がります。練習を繰り返して、手元を見ないで入力できるようになると、画面にも集中しやすくなります。このスキルは学校で端末を使う場合にも役に立ちます。いろいろな練習ソフトがありますので、お子さまに合ったものを選び練習を促すとともに、ご家族も一緒に取り組んでみられてもよいでしょう。
大切なことは、お子さまだけにやらせるのではなく、一緒に取り組んでみていただくことです。紙の教科書やワークシートで学習をしていた時にはやりにくかったようなことも、教育のデジタル化が進むことによって、一緒に楽しみながらできるようになるかもしれません。
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