福武ハウスでふるさと学習—小学生が見つけた地元・小豆島の魅力とは【直島アート便り】
- 学習
小学4年生は年間を通して地元の魅力を発見する「ふるさと学習」を行っています。2022年9月に小豆島町立安田小学校では、校区の一つである福田地区を拠点に活動する「福武ハウス」を訪問し、地元での取り組みを学びました。児童は福武ハウスでの体験を通して、どのような地元の魅力を見つけたのでしょうか。今回は、福武ハウスでのふるさと学習の様子をご紹介します。
写真で地元を振り返る—「福田からのお手紙」展
福武ハウスは廃校となっていた旧福田小学校を舞台に、地域の新たな文化交流の拠点として2013年に活動が始まりました。
アートや食、地域資源を生かした体験を通して、人と土地、人と人をつなぐ活動を展開しています。
児童はまず、かつての福田地区の様子を写した写真展「福田からのお手紙」展を鑑賞しました。
海と山に囲まれた福田地区は、昔から漁や石材の積み出し港としてさまざまな人が行き交い生活していました。また、神社やお寺、秋祭りの太鼓台や獅子舞など文化資源は今なお豊かに残っています。
「福田からのお手紙」展では、地元のかたから集めた、今に続く地域の姿を映した古い写真を展示しています。
「これは何をしているところだろう?」「この場所知ってる!」と児童同士で意見を交換したり、スタッフに質問したりしながら、昔の地域の姿を見て気付いたこと、考えたことを書き留めます。
アートを通して想像力を膨らませてみる—「アジア・ギャラリー」
福武ハウスでは、校舎の2階をギャラリー空間に改装し、日本を含むアジアのさまざまな現代アート作品を公開しています。
児童は2つのグループに分かれ、スタッフと一緒に「アジア・ギャラリー」の作品を鑑賞しました。
パナパン・ヨドマニーによる《Aftermath》では、まず作品をじっくり観察し、それぞれ見つけたことや気付いたこと、好きなところを共有し合います。
福武ハウス パナパン・ヨドマニー「Aftermath」2016 写真:宮脇慎太郎
「戦っている人がいるから、戦争を表しているのかな?」「波みたいなのが描かれているから、海賊かもしれない」「神様みたいなのがたくさんいる!」「化石が積まれているようにも見える」と、細部までよく観察しながら、作品に対して抱いた印象をどんどん膨らませていきます。
また、壁面に描かれた模様を「北海道の形に似てる!」「小豆島の形にも見える!」と話す児童や、「きれいで爽やか。自分の好きな色だからここが好き」と青色で塗られた壁を紹介する児童がいたり、身近なものや好きなものと重ね合わせながら、各々が自分だけの作品の見方を見つけていました。
鳥の鳴き声が流れる空間で空の鳥籠を使った潘逸舟(はん いしゅ)による作品《よりそう鳥籠》では、鳥たちがどんな会話をしているのかを考えるワークに取り組みました。
潘逸舟 《よりそう鳥籠》 2022 写真:井上嘉和
「おなかすいたね」と食事の予定を決めている様子を思い描いたり、静かに喧嘩しているのではないかと考えたり、「良い天気だから遊びに行こう」と会話から天候を想像したり、さまざまな解釈をしながら作品と向き合っていました。
記憶や文化を物語で紡ぐ—影絵体験
福武ハウスでは2020年より、地域固有の文化を収集・保存、体験することで地域の新たな魅力を伝えるプログラムを実践する「福武ハウス風土ラボラトリー(通称:ふふラボ)」という活動を行っています。
ふふラボでは2020年より「影絵」のプロジェクトに取り組んできました。
「影絵」のプロジェクトでは、音楽家で影絵師の川村亘平斎(こうへいさい)氏と福田の親子が一緒に地域やそこで暮らす人々の記憶に残る物語をリサーチし、その内容を影絵の作品として表現しました。
地元で暮らすお年寄りへのインタビューや、フィールドワークを通して得られた福田住民の方々、地元の中に残る記憶やお話は、川村氏によって編集され、影絵芝居『福田うみやまこばなし』となりました。
児童たちは、福田の影絵芝居が完成するまでのプロセスの話をスタッフから聞いたり、実際の上演の様子を映像で観たりしながら、地域の魅力を掘り起こすプロジェクトについて学びました。
実際に影絵制作に携わった児童もおり、地元のかたへのインタビューで印象に残ったことや実際に出演して楽しかった思い出を懐かしそうに共有してくれました。
最後は実際に影絵人形を持ち、上演で使用した大きなスクリーンに影絵を映し出します。
福田にまつわる物語の登場人物たちをスクリーンに映しながら、児童たちからは「次は出演してみたい!」「人形を作ってみたい!」といった声が挙がっていました。
影絵体験は児童たちにとって、目には見えないけれども確かに存在する「人々の記憶」という地域の魅力に気付くきっかけになったことでしょう。
地域の魅力を掘り起こす力
ベネッセアートサイト直島では、アーティストが独自の視点で地域固有の文化や歴史を読み解き、様々な表現方法で現代アートを手掛けています。安田小学校の児童たちは、地域と関わり合いながら活動を展開している福武ハウスでの体験を通して、身の回りにある地域資源の豊かさ、それらを掘り起こす手段としてのアート、そしてその表現の多様性を実際に見て感じることができたのではないでしょうか。また、児童たちは、解釈に一つの正解がない現代アートを前に、作品をよく観察し、想像を膨らませ、自分なりの答えを自ずと導き出していました。自分だけの視点で答えのないものに向き合う姿勢は、地域に眠る魅力や固有の文化を掘り起こすうえでの第一歩となるでしょう。
- 学習