発見!地元の魅力!豊島小学校のふるさと学習(前編) 【直島アート便り】
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ベネッセアートサイト直島の舞台のひとつである豊島(てしま)では、地元の魅力を見つけるための活動、ふるさと学習の一環で、小学校3年生・4年生の児童たちが9月に島内の美術館を訪れました。日常生活の近くにアートがある子どもたちとアートの間にどんなエピソードが生まれ、どんな力が身に着いたのでしょうか。2回に分けてご紹介します。
(写真)豊島美術館でふるさと学習に取り組む児童
豊島は名前の通り「豊かな島」
豊島は、香川県と岡山県の中間あたりに位置する、面積14.5k㎡、人口約770人の島です。「豊島石」と呼ばれるやわらかい凝灰岩や、島の中央にある標高約330mの壇山などが特徴です。壇山のすそ野には「唐櫃の清水」と呼ばれる湧き水があり、島内でも使用されています。この豊富な水で育った、苺やオリーブなどの農産物が美味しいのもこの島の魅力のひとつです。瀬戸内海の景観も美しく、名前の通り様々な豊かさを感じられる島です。
豊島でのアートプロジェクトは、2010年の第1回瀬戸内国際芸術祭に合わせ計画が始まりました。背景には1975年より起こった豊島産業廃棄物不法投棄事件があります。アートによって社会的な課題を直接解決することはできませんが、訪れた人々が、豊島が本来持つ自然の豊かさに気づき、体感してくださることを願って、アートプロジェクトを展開しています。
ふるさと学習とは?
豊島小学校3・4年生のふるさと学習では、地元の魅力を発見するための訪問場所を児童たちが話し合って決めています。今年は、2日間かけて豊島島内の4つの美術館を周りました。ベネッセアートサイト直島のスタッフと一緒に作品を鑑賞しながら、知りたいことや疑問に思ったことをインタビューし、1か月かけて地元の魅力を発表する準備をしていきます。
今回は、1日目に鑑賞した豊島横尾館と針工場での活動の様子をご紹介します。
(写真)豊島横尾館を訪問した児童
見つけること、つなげて考えることが面白い「豊島横尾館」
豊島横尾館は、古い民家を改修し、作家・横尾忠則の絵画作品やインスタレーション作品を展示している美術館です。建築は永山祐子が担当し、横尾忠則の描く死をイメージした世界を、特徴的な赤色を使って表現しました。
児童はスタッフとの会話を通じて、絵に描かれている様々なモチーフを見つけたり、そこにどんなストーリーがあるのか想像したりすることで、鑑賞を楽しみながら「観察力」と「思考力」を養います。
(写真)絵画作品のタイトルを考える児童
この作品では、何が描かれているかを絵の中に入っていることを想像しながら探検し、全員で作品のタイトルをつくりました。児童からは「海上ハウスみたい」「ろうそくがあるから夜かな」などの視点が共有され、今日のタイトルは「夜の海の家」に決まりました。皆さんならどんなキーワードが思い浮かぶでしょうか。
(写真)絵の中で起こっている物語を想像する児童
その他にも、3枚が連続してひとつの作品となっている「原始宇宙」という絵画では、自分たちなりのストーリーを作るワークなどを行い、児童たちは「想像力」を発揮しました。
(写真)豊島横尾館「葬の館」を鑑賞する児童
鑑賞の後半に出合う作品、豊島の風景や美術館自体の姿を描いた「葬の館」では、「さっきの絵にもいた男の人だ!」「最初にみた絵の船もある!」「モシャモシャの線の模様は隣の絵にもある。何か考えているのかなぁ?」など、他の作品と同じモチーフを次々と見つけ、活発に発言が飛び交います。この30分程度の間にも、児童たちは「観察力」や「表現力」、「協働性」を磨き、「自然に作品を鑑賞できる姿勢」を身に着けていきました。
豊島横尾館は、集落の風景、古い民家に残る営みの記憶、横尾忠則の描く世界観など、リアルと想像が混ざり合う場です。豊島の子どもたちにとっての見慣れた風景が、作家の視点を借りることで新鮮な発見につながることが、「アートを学びに活用すること」の魅力のひとつだと思います。
子どもたちも参加したプロジェクト「針工場」
(写真)針工場のラウンジで制作時のドキュメントを視聴する児童
針工場は2016年、第3回瀬戸内国際芸術祭に合わせて公開された作品です。約30年前に役目を終えたメリヤス針の工場と、愛媛県宇和島市の造船所で同じく30年前に打ち捨てられていた船型を、作家・大竹伸朗が組み合わせて新しい場を作りました。船型は愛媛県から瀬戸内海を渡り、豊島の家浦港から針工場までは豊島の多くの人々の手で運ばれました。今回ふるさと学習で訪れた3・4年生の児童は、当時最年少で船型を引っ張ってくれた子どもたちです。当時は何をしているのか分からず参加していた子どもたちも、記録写真を見ることで体験の記憶と今の作品の姿が結びついていきます。アートプロジェクトに携わったという地域住民ならではの体験を、これから豊島で育つ次の世代の子どもたちにも語り継いでいくことで、過去の記憶をもつ針工場という場に、新しい時間が積み重なっていくことを期待しています。
(写真)針工場に展示されている船型を色々な角度から観察する児童
(写真)船形の姿から「山」「イルカ」「滝」などを連想しながら鑑賞を楽しむ児童
次回の【直島アート便り】では、2日目に訪問した心臓音のアーカイブ、豊島美術館での鑑賞の様子をご紹介する予定です。
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