高校は入試改革に意欲的なのに…ズレる「実現可能」策

大学入試センター試験に替えて2020(平成32)年度から導入される「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)の記述式問題をめぐり、大学側との調整が続いています。なかなか具体的な姿が定まらない「高大接続改革」(高校教育・大学教育・大学入学者選抜の一体的改革)ですが、高校側には改革への意欲が出てきていることが、全国普通科高等学校長会(全普高)の調査でわかりました。

「複数回実施」に普通科の6割が賛成

複数回実施は、同テストの創設を提言した2014(平成26)年12月の中央教育審議会答申の段階で提案されていたものです。実施時期は関係者間で調整するとしていました。<一発勝負>が基本だった入試の在り方を根本的に改める意義がある一方、高校関係者からは、高校生活が「テスト漬けになるのではないか」といった懸念が当時、多く出されていました。

それが、今年7月に行われた調査によると、複数回実施に賛成した校長が、6割近くと多数を占めました。11月の全普高北海道大会(札幌市)で結果を報告した細田眞由美・さいたま市立大宮北高校長(大学入試研究委員会専門委員)は、この結果について「校長も、将来の高校教育を考えれば、教育活動が今のままでよいとは思っていません」と解説してくれました。

「大学入試が変わらないと、高校教育も変えられない」というのが、これまで高校関係者に強くあった認識でした。しかし、人工知能(AI)の登場などで今ある仕事の半数がなくなるという予測さえあるなか、生徒が大学を経て社会で通用する力を育てるためには、高校教育も変わらなければならない……という危機感は、高校関係者に浸透しつつあるようです。

替わりの「記述式」は迷走

しかし、中教審答申を受けた2016(平成28)年3月の「高大接続システム改革会議」最終報告で、複数回実施は見送られました。それに替えて提言されたのが、記述式でした。毎回の出題レベルを調整するのが難しいという技術的な問題もさることながら、記述式により学力を多面的・総合的に評価する仕組みができれば、複数回実施をしなくても、入試は大きく改善できる……というのが、その理由です。

その記述式にしても、これまでのようにセンターで一括採点するには、採点の期間やコストの面で、相当な困難があることもわかっていました。実現可能な方法を探るには、出題文字数を制限せざるを得ないほどで、それでは思考力・判断力・表現力を測定する意義が薄れるというジレンマにも陥っていました。

同会議の最終報告を受けて、文科省が8月に公表した検討状況では、3案を併記。全普高大会の直後に行われた国立大学協会(国大協)の総会で、文科省がようやく一本化した案を示しました。それによると、国語は、各大学が採点する長文式と、民間業者に委託して採点する短文式を出題し、2方式から各大学が選ぶとしています。

改革の必要性に対する認識は高校側に広がっているのに、肝心の新テストが迷走を続けているのは、何とも皮肉なものです。高校教育の成果がストレートに評価されるような入学者選抜を望みたいものです。

※全国普通科高等学校長会
http://www.zen-koh-choh.jp/zfk/zfk.html

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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