ボーク重子さんに聞く、非認知能力を伸ばすために家庭でやるべきこと

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文部科学省が発表した就学前教育プログラム「幼児教育スタートプラン」は、意欲や協調性、粘り強さ、コミュニケーション能力といった子どもの「非認知能力」を育てることを重視したカリキュラムです。『非認知能力の育て方』の著者であるボーク重子さんに、子どもの非認知能力の伸ばし方について、3回にわたってお聞きします。

この記事のポイント

子どもの非認知能力の育み方とは

ワシントンDC在住のボーク重子さん。2017年、長女のスカイさんが全米の大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」のグランプリに輝きました。60年以上の歴史を持つこのコンクールでアジア系の優勝は珍しく、また日本人としては初の受賞者として注目を集めました。自身の子育てで培った、非認知能力を育む教育とはどのようなものだったのでしょうか。まずは非認知能力という力について聞いてみましょう。
「認知能力は、点数や偏差値、IQなど数字で目に見える能力ですが、非認知能力はそれとは真逆の、数値化できない能力のことです。例えば、自信や自己肯定感、柔軟性、自制心、共感力、想像力や主体性、回復力、やり抜く力など。つまり豊かな人間力や、生きる力に直結するといえます。
 非認知能力の重要性については、2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・へックマン教授が、教育経済学の立場から提示しています。幼児期に非認知能力を身につけたか否かで、40歳になった時に人生における満足度や成功度に大きな差が出たという研究です。」

アメリカで非認知能力を伸ばす教育として、いま注目を集めているのがSEL(ソーシャルエモーショナルラーニング)です。SELでは、下記の5つの能力を育むことを目的としています。

  • 1. 感情を理解し適切に対処する。
  • 2. 前向きな目標を設定し達成する
  • 3. 責任ある意思決定ができる
  • 4. 他者とよい関係を築く
  • 5. 他人に対しての思いやり

自分との関わりが、自己肯定感、自制心、主体性。他者との関わりが、社会性、共感力、共存性、協働力です。この両方の軸を家庭で育んでいくために、心掛けるべきこと、意識しておくべきことはどのようなことなのでしょうか。

「最も大切なのは、非認知能力を育む環境を家庭の中に作ることです。子どもが安心と安全を感じる環境を作ること。安心と安全を感じる環境とは、子ども自身が存在を認められていると感じること、さらに今の自分のままでいいと思える環境を作ることです。自分の言いたいことを、否定されることなく言える環境が整っていると、子どもは主体性や好奇心を育んでいくことができます
 他者との関わりの基本となるのは、まずは家庭の中です。父親母親とはいえ、他人。家庭というコミュニティの中で、自分の感情をコントロールすること、ダメなことをしたら謝るということを徹底しましょう。また、“家族のルール”を作って、皆でそれを守るということも効果的です。一度決めた家族のルールは徹底します。たとえ子どもがどんなに小さくても、それは変わりません。アメリカではSELを育む目標が設定されています。例えば5歳児の場合は、おもちゃを一緒に使う、感情をコントロールする、クラスの中のルールを守るなど。それと同じことを家庭でやることも重要です。ここまではいいけど、これ以上はダメだよ、ときっちり線引きをしましょう。悪いことをしたら、相手は傷つくということを理解させて、きちんと謝ることも重要です。
 ちなみに我が家では、ご飯を当番制にするというルールを決めていました。母親が家族のお世話をするのではなく、夫も、娘も、私も順番がきたら家族の分のご飯を作ります。お手伝いというよりは、家族というコミュニティを機能させるための、ひとりひとりの役割として、皆で協力していました。」

重要なのは、子どもとの向き合い方を変えること

何か特別なことをやるのではなく、日々の子どもとの関わり方、夫との関わり方を、改めて見つめなおす。それが家庭でできる非認知能力の伸ばし方だといいます。

「非認知能力を伸ばすために、子どもに何をやらせたらいいですか、という質問をよく受けますが、今までやっていたことにプラスで何か新しいことをやるのではなく、変えるべきは、 親の子どもに対する向き合い方です。
 例えば、小さい子どもが何かお手伝いをやりたがった時に、『ママがやった方が早いから』と断るのではなく、非認知能力を伸ばすチャンスだと思って、子どもにお手伝いをさせましょう。できることを相談して、それぞれの役割を決めましょう。自分が役立つと思うことで、子どもの自己肯定感も上がりますし、やればやるほど上達するので、その達成感も味わえます。お手伝いをやらせることで、責任感も育まれて、家族というコミュニティを一緒に運営していく共同意識が育まれます。それこそが、非認知能力なんです。社会と他者との関わりの一番小さなコミュニティは家庭ですから。」

反抗期を迎えた子どもとの接し方

非認知能力を伸ばすためには10歳までの家庭教育が鍵だと一般的に言われていますが、反抗期を迎えた子どもに対しては、どのように接するべきなのでしょうか。

「思春期は、親と自分を引き離そうとする時期です。親と自分は違うということを、子どもが意識し始める時期でもあります。子どもの言うことをすべて真に受けないことが大事です。反抗期であっても自分の言いたいことを言えるというのは素晴らしいこと。親には嫌われないという自信があるからこそ言えるのですから。反抗期の子どもに対して意識することは声掛けというよりも、言葉ではなく態度で、あなたのことが好きで、認めているということを示すこと。子どもを信じて見守るしかありません。子どもから何か言われても、それがひどい言葉じゃなかったら気にしないこと。ひどい言葉だったら、“それを言われたらさすがにママだって嫌だよ”、と気持ちを伝えること。頭ごなしに叱らないことが大切です。」

二回目では、自己肯定感についてフォーカスします。
非認知能力で最重要!「自己肯定感」を育むために、親が知っておきたいこととは?[ボーク重子さんに聞く]

三回目
「全米最優秀女子高生」を育てたボーク重子さんに聞く、子どもの習い事、何をさせる?  やめたいと言われたときはどうする?

まとめ & 実践 TIPS

子どもの非認知能力を伸ばす鍵は家庭にあり。家族という小さな社会のルールを、子どもと話し合って決めてみましょう。ルールを決めたら蔑ろにせず、大人もきちんと守ることが重要です。

プロフィール


ボーク重子

ICF会員ライフコーチ。Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。米ワシントンDC在住。30歳の誕生日を前に渡英、ロンドンにある美術系大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、フランス語の勉強で訪れた南仏の語学学校で、米国人である現在の夫と出会う。1998年渡米し、出産。子育てと並行して自身のキャリアを積み上げ、2004年にアジア現代アート専門ギャラリーをオープン。2006年、ワシントニアン誌上でオバマ元大統領(当時は上院議員)とともに、「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介される。一人娘であるスカイは2017年「全米最優秀女子高生」コンクールで優勝し、多くのメディアで取り上げられた。現在は、全米・日本各地で《非認知能力を育む子育て》《新しい時代のキャリア構築》についてコーチングと講演会を開催している。著書に『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など shigekobork.com 東京FMラジオ局のAuDee (Iphoneアプリ)、マイスタジオにて「ピンクdeワオ:自己肯定感コーチング」毎週月曜日から金曜日朝6時配信中。

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