「第6回 高校生アートライター大賞」大賞受賞者インタビュー 高木優さん

アートについて自分の言葉で考え、伝える。「高校生アートライター大賞」は、筑波大学芸術専門学群が主催する高校生のためのエッセイコンテストです。2016年2月に受賞者が発表された第6回では、日ごろから芸術に向き合う高校生から800点以上の作品が寄せられました。大賞のひとりに選ばれた明誠学院高等学校3年生の高木優さんは、高校書道部で臨書(古典の名作を手本にした書)に取り組んだ経験を通じて、その葛藤と気づきを表現しています。

「運命の書」との出合いと葛藤

私は小1で習字を始め、現在は高校書道部で、漢字、かな、篆刻などさまざまな分野の作品づくりに取り組んでいます。その中に、古典をお手本にしてそっくりに書く「臨書」というジャンルがあります。私は高1で中国・北宋時代を代表する書家、米芾(べいふつ)の『蜀素帖(しょくそじょう)』という作品に出合い、以来ずっとこの作品に向き合ってきました。初めて臨書の題材を選ぶとき、いろいろな古典作品の中で、これだけがパッと目に飛び込んできたのです。

勢いがあり、リズムがよく、一文字ずつすべての表情が違うので、いくら見ても見飽きない。「私もこんな字を書きたい」と夢中になりました。でも、なかなか最初に見た感動を表現することができません。どう書けばいいのかすごく悩んで……。このエッセイでは、米芾との出合いから約1年間の心境の変化を書いたものです。

エッセイを通じて、書の楽しさを再確認

思うように作品づくりができずにモヤモヤしていた時、たまたま「高校生アートライター大賞」を知りました。文章にすればこの気持ちが整理できるのではないか。そう思ったのが応募のきっかけです。書き終わった後、本当に心の霧が晴れたように感じました。自分が目の前のことしか見ていなかったことに気づいて、自然に「もっと楽しんで書こう」「初心に返ろう」と思えるようになったのです。

『蜀素帖』には米芾自作の詩が書かれているのですが、寓話あり、旅行記ありと、その内容はいろいろです。これを書いたときの米芾の気持ちを想像すると、ますます臨書にやりがいを感じるようになりました。

今、小学生に習字を教えるボランティアをしているのですが、「もっといいものを書きたい」という強い思いをもって粘り強く作品を作り続けていけば、必ずいい作品が生まれる。そんな書道の楽しさを少しでも伝えていきたいと思っています。

やりたいことをマイペースに追求

私の家族は誰も書道をやらないのですが、私は小さい頃から書くのが楽しくて仕方ありませんでした。そして「もっと書きたい」という率直な思いで「特別芸術コース」があり、書道が専門的に学べる今の高校に進みました。ただ、自宅のある玉野市から高校までの交通が不便で、通学には両親の車の送迎が必要です。世話をかけさせて申し訳ないのですが、やりたいことを応援してくれている家族にとても感謝しています。

家では、みんながテレビを見ているリビングで、私だけがテレビに背を向けて書道をしています。私はどんな環境でも集中できるので気になりませんが、家族からはいつも「墨で部屋を汚さないで」と迷惑そうな顔をされています(笑)。

今回、アートライター大賞を受賞したことで、家族にも友人にも「こんなことしてたの」と驚かれると同時に、私の思いも理解してもらえました。特に母はこのエッセイを読んでから「ちゃんと書けてる?」「進んでる?」と気にしてくれるようになりました。やはり身近な人に理解してもらえるのはうれしいし励みになります。

さらに深く! 研究論文を執筆中

受賞後、さらに米芾の研究を進めています。この春には学校から中国へ研修旅行に行き、現地で蜀素帖の拓本(碑の刻面に紙を貼り、墨で文字を写し取ったもの)が載った書籍を手に入れました。しかし元の書と比べるとかなり違います。点が消えていたり、文字と文字の間隔がきれいに揃えられていたり。独特の味わいがなくなっていて違和感がありました。

その後、大阪で米芾の肉筆が出展された展覧会に行きました。「かすれ」の一つひとつまで、ガラスケースに穴が開くほど見ましたが、やっぱり本物は迫力が違います。今、これらの経験をもとに、米芾の世界をさらに掘り下げる研究論文を書いていて、高校の卒業制作展までに完成させるつもりです。

将来のことはまだはっきり決めていませんが、実は書道のプロを目指すというより、書道をやりながら広く社会に目を向けていきたいと思っています。例えば故郷の玉野市を書道で活性化できたら素敵だなあと考えることも。米芾もアーティストであると同時に、社会的に影響力のある存在でした。そんな米芾に少しでも近づきたいと思っています。

エッセイを書くことで書道に向き合う気持ちに迷いがなくなったと話す高木さん。その晴れ晴れとした表情がとても印象的でした。その影響もあるのでしょうか。エッセイを執筆していたころに制作に取り組んでいた『蜀素帖』の臨書は、2015年の「第54回伊勢神宮奉納書道展」で、伊勢神宮奉納書道展総裁賞を受賞したそうです。
現在は大学受験を目前に控えた高校3年生。受験勉強と両立しながら、卒業ぎりぎりまで作品制作や論文づくりに取り組む日々が続きます。大学進学後、さらに視野を広げた高木さんの活躍が楽しみです。

「第6回 高校生アートライター大賞」
http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~awa/

主催:筑波大学芸術専門学群 共催:毎日新聞社
後援:文部科学省 全国高等学校美術工芸教育研究会
協賛:株式会社ベネッセコーポレーション

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