「中高一貫教育校」と「中高一貫校」との違いは?‐渡辺敦司‐

見出しを見て一瞬、戸惑ったかたも少なくなかったのではないでしょうか。「中高一貫教育校」と「中高一貫校」。「教育」の文字が入っているか入っていないかの違いですが、「教育」の入っている中高一貫教育校が国の「中高一貫教育制度」に基づく学校であるのに対して、中高一貫校は必ずしも国の制度に基づいているとは限らず、私立などで「私学の独自性」(私立学校法上は「私立学校の特性」)に基づいて中学校と高校を一体で運営している昔ながらの形態です。生徒や保護者は普通それほど意識する必要はないのですが、この違いが時に大きな問題を起こすことがあります。

先頃、大阪の私立高校で、理科の選択必履修科目である「物理基礎」を約200人が未履修だったことが発覚し、府が補習などを行うよう指導しました。未履修といえば、2006(平成18)年度に全国の1割の高校で卒業直前まで補習に追われた「未履修問題」が思い起こされます。この時は受験シフトのカリキュラムを組んでいたため、本来は履修させるべき科目まで受験科目の授業に充てていたといったケースがほとんどでした。しかし今回の高校の場合は違います。「中高一貫教育校」と「中高一貫校」の違いでした。

先の私立高校では2年前から系列中学校の内部進学生に中高一貫カリキュラムを編成し、物理基礎の授業を中学校で実施していました。しかし「中高一貫教育校」としての届け出をしていなかったため、中学校での授業が高校分の履修と認められず、高校で未履修とされたのです。
「中高一貫教育校」の場合、6年一貫で教育を行う「中等教育学校」の前期課程(中学校相当)・後期課程(高校相当)と併設型中学校・高校では、中学校と高校の内容を入れ替えることが、教育課程の特例として認められています(連携型中学校・高校には特例なし)。中等教育学校か併設型として届け出ていれば、中学校で高校の授業を前倒しで行っても高校の卒業単位として認められたわけですが、届け出がない場合には、制度上あくまで普通の中学校でカリキュラムにはない高校の授業をやったというふうに見なさざるを得なくなってしまうわけです。

学習指導要領には法的拘束力があり、私学にも当然、適用されます。ほとんどの学校ではちゃんと法令に基づいた学校運営や教育課程編成が行われていますから、生徒も保護者も「中高一貫教育校か、中高一貫校か」などということを気にする必要は、まずありません。
ただ2006(平成18)年度の未履修問題も、公立を含め、指導要領を弾力的に運用できると勘違いしてやっていたケースも少なからずありました。中高一貫教育校に移行した学校でも「中高一貫校」を名乗ったままの学校も少なくありませんから、一般の人が見分けるのも困難なこともあるようです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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