「第6回 高校生アートライター大賞」大賞受賞者インタビュー 松尾華子さん
「アートライター大賞」とは、アートについて自分の言葉で考え、伝える力を育む、高校生のためのエッセイコンテスト。第6回の今回は、3名が大賞を受賞しました。
その中のひとり、香川県直島にある「地中美術館」でインスタレーション(空間全体を作品として体感させる芸術)にふれた体験を『地中からの美』というエッセイにし、大賞を受賞した浜松学芸高等学校3年生の松尾華子さんの想いをご紹介します。
「空間にも美がある」と気づかされた地中美術館での体験
私は、高校の芸術科美術課程で、油絵を専攻しています。油絵は、平面のキャンバスに描くので、日頃は主に平面上の美しさを意識していましたが、地中美術館の「タイム/タイムレス/ノー・タイム」というインスタレーションを見て、自分の考えの狭さに気づきました。コンクリートの壁が広がる空間に黒い球体、そこに自然光が差し込む光景に、”美しさ”は平面上のみならずもっと広く、空間や建築にもあるのだと発見したのです。その発見を自分の言葉でエッセイにすることで、美術の可能性を第三者に伝えたいと考えました。
抽象的な物事を人に伝える難しさ
ふだん、なにか美しいものを見たり、感動したりした時に、自分が感じたことは心の中にはたくさんあふれています。でも、その心の中にあることを文字にして伝えるのには苦労しました。感情という抽象的なものを言葉にするのはとても大変で、思っていたことを伝えるのにぴったりの表現がなかなか見つからないのです。
今までエッセイのような、自分の考えを文章にする経験はなかったので、正しい書き方があるのかもわからなかったのですが、できる限り自分の言葉で書こうと、夏休みを削ってがんばりました。今回のエッセイを書いてみて「今、私は何を感じているのだろう」と、改めて自分を客観的に見つめなおし、考えていることを整理できました。
のびのびと育てられて育まれた自主性
「タイム/タイムレス/ノー・タイム」がある地中美術館へは、夏休みの家族旅行で訪れました。もともと、両親が美術館を訪れるのが好きで、私も自然と小さい頃から美術館に足を運んでいました。今でも一緒に美術館に行った時には家族と「どうしてあの作品はいいんだろうね」と、話したりしています。
私は、中学生の時に美術部に所属したことがきっかけで、アートに興味をもち、高校も美術について専門的に学べる美術課程がある学校を選びました。両親から「勉強しなさい」とか「これをやりなさい」「あれをやったらダメ」と言われたことはまったくありませんでした。私はそれがかえって不安で、「何も言われないからちゃんとやらないと」と思うことがよくあります(笑)一方で、私がやりたいことに関しては「妥協せずにやりなさい」と、応援してくれるので、それがとてもありがたいです。
興味の幅の広がりが、進路選びにも影響を与えた
今は、卒業制作となる油絵を描きながら、美大受験に向けて準備をしています。進路について、今までは「美大の油絵科に行って、平面作品を作る」と思っていたのですが、このエッセイを書いたことで、立体作品やインスタレーションにもチャレンジできる分野にも興味がわくようになりました。
主観で評価されるなど正解が定まっていない”アート”と日々向き合っている松尾さん。自分の作品に関しても、先生の指導を受ける一方で、どうしても納得できない場合は曲げずにやりたい方向にチャレンジすることを心がけているとのこと。やりたいことを見つけるために、日々、好きな画家の画集を見たり、インターネットで表現の素材になるものを探したりしてインプットを増やすことを意識しているそうです。
アートライター大賞がきっかけで、視野が広がり興味がわく分野が増えたという松尾さん。これからも作品作りを通して自分の表現をもっと研究したいと話してくれました。
「第6回 高校生アートライター大賞」
http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~awa/
主催:筑波大学芸術専門学群 共催:毎日新聞社
後援:文部科学省 全国高等学校美術工芸教育研究会
協賛:株式会社ベネッセコーポレーション