東北の教育から日本が、世界が学ぶ

東日本大震災から5年がたちました。被災の復興はもとより、いまだ癒えない心の傷に対するフォローなど、課題は山積しています。一方で、不幸にして得られた貴重な教訓を、今後に生かすことが求められます。改めて確認しておきたいことは 、大規模災害などの危機にも機敏に対応できる「学校」や「教職員」の存在の重要性です。そして、その重要性は、被災対応にとどまりません。東北のみならず、常に子どもに寄り添ってその力を引き出そうと日々努力する日本中の学校や教職員の潜在的な能力に、国内ばかりか海外からも注目が集まり、今、未来に向けた教育の在り方として発信されようとしているのです。

東日本大震災では、600校以上が避難所になりました。そうしたなかで、被災地の教職員は、自らも被災するなか、避難住民にも対応しつつ、子どもたちの安否の確認に奔走し、心身の安定を図りながら、授業再開とその後の学習・生活指導に、昼夜を問わず当たってきました。

これらは、単なる教育の「復興」にとどまりません。たとえば「総合的な学習の時間」では、子どもたちが本当に追究したくなるようなテーマの設定が、最大の眼目であるといいます。その点、まちの復興は、まさに切実なテーマです。子どもたちの心情に配慮しつつも、現実に向き合い、課題解決を考えさせようという「創造的復興教育」が、この間、各地で展開されました。主体的・協働的な学びを通じて、将来につながる汎用的な能力も育成しようとしています。そうした実践を可能にしているのも、東北に限らない、日本の教職員の底力です。

  • ※創造的復興教育
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo9/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2012/06/25/1322792_9.pdf

そうした底力にいち早く注目したのが、経済協力開発機構(OECD)でした。2011~14(平成23~26)年には、被災3県を中心としたプロジェクト「OECD東北スクール」を展開。各地でチームをつくり、地域の復興を考えることを通じて、21世紀に求められる「キー・コンピテンシー」(主要能力)の育成を追究しました。

  • ※OECD東北スクール
  • http://oecdtohokuschool.sub.jp/

OECDは現在、「Education 2030」というプロジェクトを進めています。キー・コンピテンシーの改定を通じて、2030(平成42)年に向けた教育の在り方を、世界に提案しようというものです。そのために「日本・OECD政策対話」を行っており、共同研究の成果を生かそうとしています。そこには、東北スクールの後継事業である「地方創生イノベーションスクール2030」(事務局=東京大学公共政策大学院)なども加わっています。

  • ※地方創生イノベーションスクール2030
  • https://innovativeschools.jp/

キー・コンピテンシーの改定をめぐっては、「知識」「スキル」「情意」で構成されるカリキュラム・デザインが検討されています。情意の育成といえば、生徒指導や課外活動の実績がある、まさに日本の強みです。OECDの動きと連動して、中央教育審議会でも現在、「育成すべき資質・能力(コンピテンシー)」に基づいて、学習指導要領を大幅に改訂しようとしています。

日本の教育の欠点ばかりに目を向けるのではなく、その強みを生かして未来志向の教育を目指すことが、21世紀を通じて国内外で活躍する子どもたちの育成につながります。そのことを被災地の学校と教職員が教えてくれたことを、決して忘れてはならないでしょう。

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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